◎「はだれ」

「はにてあれ(端離れ)」。全体が部分部分となり分散する印象であること。動態が全体に均一ではなく、むらがある。動態にむらがある。意味は「はだら」に似ていますが、それは情況表現であり、「はだれ」は動態表現やその結果。

「沫雪(あわゆき)かはだれ(薄太礼)に降ると見るまでに流らへ散るは何の花ぞも」(万1420)。

「小竹(ささ)の葉にはだれ(薄太礼)降(ふ)り覆ひ消なばかも忘れむと言へばまして思ほゆ」(万2337:この「はだれ」は動詞と評価してもいい)。

「雪ははだれにふつたりけり」(『平家物語』)。

 

◎「はち(蜂)」

「はとい(羽鋭射)」。「とい」は「つ」にもなりそうですが、「と(利・鋭)」(その項)は甲類表記の音(オン)であり、「ち」になりうる。意味は、羽のある鋭利な射(い)のもの。「射(い)」は直線進行ですが、矢が考えられている。つまり、羽のある鋭い矢のようなもの、の意。飛んできて刺さり、ひどく痛む。これは虫の名ですが、羽があり、飛び、人を刺す。名の原形はスズメバチによるものでしょうけれど、刺されればひどく痛み、悪条件が重なれば死ぬこともありうる。

「(大国主神を)呉公(むかで)と蜂(はち)との室(むろや)に入れたまひしを…」(『古事記』)。

「是歲(ことし)、百濟(くだら)の太子(こんきし)餘豐(よほう)、蜜蜂(みちはち)の房(す)四枚(よつ)を以(も)て、三輪山(みわやま)に放(はな)ち養(か)ふ。而(しかう)して終(つひ)に蕃息(うまはら)ず(繁殖しなかった)」(『日本書紀』:生(う)み→生(う)み這(は)ひ・うまひ(生む情況になる)→うまひあり(うまひ有り:生む情況がある)・うまはり。「こんきし」は古い朝鮮語。王のような立場の者を、コンキシ、や、コニキシ、や、コキシ、という)。

「蜂 ……和名波知 螫虫也」(『和名類聚鈔』:「螫(セキ)」は『説文』に「蟲行毒也」とされる字)。