◎「はたらき(働き)」(動詞)

「はたはりわき(畑墾り湧き)」。動詞「はり(墾り)」はその項参照。「はたはり(畑墾り)」は畑を開くこと。要するに原野を開墾し畑にすることです。有用な産物を生み出す畑を開くような、効果が無から沸いて出るようなことをしていること、すること。それが「はたはりわき(畑墾り湧き)→はたらき」。たとえばAがなにかをし、Bがそれを認識している場合、元来、「畑墾(はたは)り」が湧(わ)いているのは、そうした印象が起こっているのは、Aではなく、Bでしょう。それが「Aの畑墾(はたは)り湧(わ)きにより…→Aのはたらきにより…」といった表現がなされ、それがAの行為を表現する動詞となり、「Aがはたらく」という表現になる。意味は、意味や価値生産的な有効な行為をすること。ものだけではなく、現象にかんしても言う→「電磁波のはたらきにより…」。

「生きてはたらき給ふ仏と言はれ給ふ加持(かぢ)参り給へば」(『宇津保物語』:「加持(かぢ)参り」は、祈祷する、のような意であり、ようするに、神仏に祈ること。そこで「念誦声に加持したるを…」(『蜻蛉日記』)といったことがおこなわれるわけですが、その「念誦」が「生きてはたらき給ふ仏」と言われる)。

「妻子かなしみ泣て、(法師を)くはん(棺)に入(いれ)ながら捨ずして置て、猶これをみるに、死(しに)て六日といふ日の未(ひつじ)の時ばかりに、にはかに此(この)くはん(棺)はたらく…」(『宇治拾遺物語』:死体が横たわっているはずの棺桶が動いた)。

「つねにありき(歩き)つねにはたらくは養生なるべし(健全な身のため)。なんぞいたづらにやすみをらん」(『方丈記』)。

「(所持金・財産)五十貫目までの人、十五(かこひ:三級の下級遊女)に出合ひてよし。それも其の銀はたらかずして(そんな金、下級遊女でも有効ではなく)、居食ひの人(無職の人。稼ぎのない人)は思ひもよらぬ事」(「浮世草子」『好色一代女』)。

「『コリヤ、肴がない。きた公、なんぞはたらき給へ』」(「滑稽本」『続々膝栗毛』:なにか肴がないことに対処する有効なことをしてくれ)。

「人前(にんぜん)に慮外をはたらき…」 (「仮名草子」『浮世物語』:これは他動表現)。

「(姉は)細かい事にまでよく好奇心を働らかせたがった」(『道草』(夏目漱石))。

 

◎「はたり(徴り)」(動詞)

「はた(畑)」の動詞化。畑をする、ということなのですが、畑から収穫物を採取するように、収穫物をもっていくことです。威圧的強制感が感じられる税の(役税もある)徴収を言う。意味発展的に、債務の強圧的徴収も言う。

「壇越(だにをち)やしかもな言ひそ里長(さとをさ)が課役(えつき)徴(はた)らば汝(なれ)も半甘」(万3847:これは前の万3846に答えた歌。「壇越(だにをち)」は施主。後(のち)に言う「檀那・旦那(だんな)」。最後の「半甘」の読みですが、音(オン)により、「はにかむ」でしょう。「ん」の表記のない時代、その音を「に」と表記した→「セン→ぜに(銭)」。「はにかみ」という動詞にはいくつかの種類があり(その項)、犬が牙をむいて飛びかかりそうになっている状態を表現するそれもある)。

「徴 抁債」(『色葉(伊呂葉)字類抄』:「抁(エン)」にかんしては中国の書に「動也」や「銳或作抁」とある。ようするに、「抁債」は債務を強く積極的にとりたてること)。

「蓮花の大屋、店賃を債(はた)れば…」(「談義本」『根無草(根南志具佐)』)。