◎「ばけ(化け)」(動詞)

「みまけ(見任け)」。「まけ(任け)」はことを人に思念化する(→「まけ(任け)」の項)。「みまけ(見任け)→ばけ」は、ことたる「み(見)」を、人や人々が見るそれを、人や人々に思念化してしまう。そうする能力や技術(思うままに現実を変えてしまう能力や技術)も(名詞で)「ばけ」と言う。のちには、「ばけ」によって見るもの、非現実的なもの、を「ばけもの」というようにもなる。

「『汝(いましみこと)、久(ひさ)しく海原(うなはら)に居(ま)しき。必(かなら)ず善(よ)き術(ばけ)有(あ)らむ。願(ねが)はくは救(すく)ひたまへ』」(『日本書紀』)。

「『同學(ともにならふひと)鞍作得志(くらつくりのとくし)、虎(とら)を以(も)て友(とも)と爲(し)て其(その)術(ばけ)を學(まな)び取(と)れり。或(ある)いは枯山(からやま)をして變(か)へて靑山(あをやま)にす。或(ある)いは黃(き)なる地(つち)をして變(か)へて白(しろ)き水(みづ)にす。種々(くさぐさ)の奇(あや)しき術(ばけ)、殫(つく)して究(きは)むべからず…』」(『日本書紀』)。

「術 ……ネカフ…タノム バケ」(『類聚名義抄』:願いや願望を達成する方法(つまり、現実を変える(願う世界へ行く)方法)、のような意味で言っている)。

「猟師なれども慮(おもんぱかり)ありければ狸を射害(いころ)し其(その)ばけをあらはしけるなり」(『宇治拾遺物語』)。「…古き所なり。あひ継ぎて住まれけるほどに、狐多く、常に化けけり」(『古今著聞集』:狐(きつね)や狸(たぬき)が化けたり人を化かしたりという話は中国の民間説話の影響らしい)。

「恐ろしや天狗ばけ物(もの)などにや、と云ければ…」(『源平盛衰記』)。

「妖 バクル 化 同」(『雑字類書』)。

「魅 バカス」(『書言字考節用集』:これは「ばけ」の他動表現。「魅(ミ)」は、化け物・妖怪、の意もあり、人の心を惑わし引きつける、という意もある。漢字の原意は見えにくい亡霊)。

 

◎「はげし(激し)」(形シク)

「はげけし(「は」気異し)」。「けし(異し)」の「け(異)」は異常、特異であること(その項・2021年12月14日)。その形容詞「けし(異し)」は異常、特異であることを称賛したり感嘆したりしてもちいられるものではなく、あやしさや違和感が感じられることを表現してもちいられる。「はげ(「は」気)」とは、なにものかやなにごとかから「け(気)」が感じられ、その気(け)が、「は」と感づかせる、発生感・存在感を感じさせる、「け(気)」だ、ということ。「は」の発生感・存在感にかんしては「は(助)」の項(7月24日)。ものやこと、すなわち動態、の発生や存在としてそこに感じられる「け(気)」が特異・異常であることが「はげけし(「は」気異し)→はげし」。たとえば動態なら、その発生がなくなっていくのではなく、その発生が特異な頻度や強度で増していく。たとえば岩や山の形体なら。周囲や環境への積極性を感じさせる、尖った形体が連続していたりする。

「風吹波はげしけれども」(『竹取物語』)。

「父子の情既に切(ハケシ)。眷念の意愈よ深し」(『法華経玄賛』)。

「あなかしこ。この山をたづぬる事、はげしき巌(いはほ)焔(ほむら)いづるまで、獣(けだもの)のはげしき中をわけ出(い)づるときは…」(『宇津保物語』)。