◎「ばいた」
「バイては(枚手端)」。「バイ」は「枚」の漢音であり、原意は、幹や枝など、木の雑多な棒状のものを意味する。「バイギ(枚木)」やその束(たば)たる「バイソク(枚束)」という語もあり、それを(燃料用に)売る人や売られているそれもそう呼ばれた。「バイては(枚手端)→ばいた」は、その「バイ(枚)」の手のもの、枚(バイ)になるもの、の断片、ということであり、「バイギ(枚木)」や「バイソク(枚束)」のように、それを売る人や売られているそれがそう呼ばれた。自然木とは限らず、建築廃材なども売っていたでしょう。
「山より出す薪に牧田(バイタ)といふあり。斧鉞(をのまさかり)にてあらくわりたる、わらざる、あつめ束ねて、これをあきなふ。牧束(ばいそく)とも、牧木(ばいぎ)ともいへり」(「評判記」『色道大鏡』(1678年))。
「バイトアン(売徒安)」。徒(いたづら)な安(アン:やすらかさ)を売(う)ること・者、ということなのですが、これが、性関係のことで金を得る女、を意味する。この語は、1600年代頃に、風俗を取り締まる幕府の取り締まりの中で言われた語のように思われます。たとえば吉原の遊郭のような、幕府の管理下におかれた場における遊興、それを行う女、ではなく、道端で客をひき橋の下で性関係の相手をするような女もおり、私的にそれを集める男もいたでしょう。それらを放縦におこなうことは取り締まられ、女は「バイトアン(売徒安)→ばいた」とも呼ばれたわけです。その結果、「ばいた」という語は、権威が、有ってはならないことを叱り罵るような語となり、同時に、その、あってはならないこと、には性的な印象が強い語になっている。罵る主体は男も女もありますが、罵られるのは女です。そうした語ですから、ある者が「ばいた」であるかどうかは罵ったり非難したりする者の道徳観によっても変わり、非難される者に期待されている生活姿勢などによっても変る。
「今度下町新町はいた御改に付て、はいた隠置候と相見え候間…」(『御触書寛保集成』慶安二(1649)年九月)。
「あの揚巻といふ売女(バイタ)めは」(「歌舞伎」『助六廓夜桜』)。