◎「のり(乗り)」(動詞)

「のをより(「の」を寄り)」。「AのB」はBはAに属すことを表現する。「彼の本」は本は彼に属している。その「の」の状態で、何かに属す状態で、何かに寄ることが「のをより(「の」を寄り)」。「より(寄り)」は経験経過を表現する。「舟にのり」は、舟に属す状態でこれに経験経過すること。事象や心情に関しても言う。「(ある記事が)新聞にのる」「そんな話にはのれない」。「気分がのる」は環境情況にのる。

「臣女(おみのめ)の 櫛笥(くしげ)に乗れる 鏡なす…」(万509)。

「…赤駒(あかこま)に 倭文鞍(しつくら)うち置き 這ひ乗り(のり:能利)て…」(万804)。

「大船に妹乗る(のる:能流)ものにあらませば羽ぐくみ持ちて行かましものを」(万3579)。

「大空より人、雲に乗りて下(お)り来て…」(『竹取物語』)。

「海原の路(みち)に乗りてや吾が恋ひ居らむ大舟のゆたにあるらむ人の兒(こ)ゆゑに」(万2367:この「みちにのる」という表現は、一定進路を自動的にすすんでいるような表現であり、舟で進むことによる表現であろう。「みちのり(道程)」という語もそれにより生まれているのかもしれない)。

「我(あれ)其(そ)の船(ふね)を押(お)し流(なが)さば、差暫(ややしま)し往(い)でませ、味(うま)し御路(みち)有(あ)らむ。乃(すなは)ち其(そ)の道(みち)に乘(の)りて往(い)でまさば、魚鱗(いろこ)の如(ごと)造(つく)れる宮室(みや)、其(そ)れ綿津見神(わたつみのかみ)の宮(みや)ぞ」(『古事記』)。

「ま愛(かな)しみ寝れば言に出さ寝なへば心の緒ろに乗り(のり:能里)てかなしも」(万3466:「心にのり」は、心のそれとなり寄る。現実の妹が心の妹となり寄る)。

「あまのとの あくるまをたに ゆるされて またよにのりて かへりけるかな(天の門の 明くる間をだに 許されで まだ夜にのりて 帰りぬるかな)」(『朝忠集』)。

「図(ヅ)にのる」(「図(ヅ)にのる」は、自分の意図のままになる、のような意味なのですが、関係した者としては、うまく利用された、のような思いになるのでしょう、反発が起こり、「ヅにのりやがって」のような言い方もなされ、得意げに頭がのぼせあがっている、のような意味で「頭(ヅ)にのる」と書かれることが多い)。「調子にのる」。「気(キ)がのらない」。「興(キョウ)にのる」。「おだてにのる」。「その手にはのらない」。「話にのる」。「口車にのる」。「脂(あぶら)がのっている」。「名簿にのる」。

 

◎「のせ(乗せ)」(動詞)

「のり(乗り)」の他動表現。(「余り・余し」「下り・下し」のような)「のし」ではなく、「のせ」という使役型の他動表現になる。「のり(乗り)」という動態が他に働きかける動態だからです。

「天(あめ)は覆(おほ)ひて地(つち)は載(の)す、四時(よつのとき:四季)順(したが)ひ行(おこな)ひて萬氣(よろづのしるし)通(かよ)ふこと得(う)」(『日本書紀』)。

「先(ま)づ蛭兒(ひるこ)を生(う)む、便(すなは)ち葦船(あしのふね)に載(の)せて流(ながしや)りてき」(『日本書紀』)。

「やうやうといふ声をいふもの有。のせたる心よりいつ(づ)」(『申楽談儀』)。

「のする 其者を満足がるやうにいひなして、歓ばする貌をいふ。又は聞うくるもの興に乗ずるによりて、かくもいふか」(「評判記」『色道大鏡』)。