◎「のたまひ(宣ひ)」(動詞)
「のりたまひ(告り給ひ)」。「り」の無音化。「のり(告り・・罵り)」「たまひ(給ひ・賜ひ)」(2024年1月10日)はそれぞれその項。原意は言語を発生させることですが、それを間接的に表現した敬い表現。音(オン)が約され「のたまふ」が「のたぶ」になったり、このク語法表現「のたまはく」が「のたばく」になったりもする。
「(源氏は)頭中将ばかりを、「立ちながら、こなたに入りたまへ」とのたまひて、御簾(みす)の内ながらのたまふ」(『源氏物語』)。
「諗 ……宣命也告也念也謀也 乃太万不」(『新撰字鏡』)。
「「いとかしこき仰せ言にはべるなり。姉なる人(空蝉)にのたまひみむ」と(紀伊守が)申すも…」(『源氏物語』:自分が言うことを「のたまひ」と表現しているわけですが、源氏の言ったことを伝えるから)。
「…ちちの実の 父の命は 栲(たく)づのの 白髭の上ゆ 涙垂り 嘆きのたばく(乃多婆久)…」(万4408)。
◎「のたうび」(動詞)
「のりたくふみ(告りたく践み)」。「り」は退行化し、「く」は音便化し、「のたうふみ→のたうび」になった。「のりたく(告りたく)」は「告(の)りつ」のク語法(「つ」は完了の助動詞)。「ふみ(踏み・践み)」は実践すること(その項)。意味は、「告(の)る」ということを実践し、ということになり、これは、「告(の)り」を間接的に表現した丁寧な表現になる。意味の基本は「言(い)ひ」です。
「『殿なむきんぢ(近侍)が、司のかみのこぞよりいとせちにのたうぶ事のあるを…』」(『蜻蛉日記』)。
「やよひはかり(弥生許)に、物のたうひける人のもとに、又人まかりつつせうそこ(消息:手紙)すとききてつかはしける」(『古今和歌集』)。
◎「のたうち」(動詞)
「のたうち(野田打ち)」。「のた(野田)」は、人が作ったものではなく、自然の田(た)の意。その他にかんしては「ぬたうち」に同じ(その項・5月9日)。
「餘(あま)りの苦しさにのた打てころげ廻(まは)れば…」(「談儀本」『古朽木』)。