◎「のこり(残り)」(動詞)
「のきゆこり(退きゆ凝り)」。何かが退(の)く、しかし、その退(の)きの動態に抵抗するかのように、その退(の)きによって凝固したかのような印象であること・もの。「のき(退き)」「こり(凝り)」はその項。「こり(凝り)」は存在情況が生じること。「ゆ」は経験経過を表現する助詞になっているそれであり(→「ゆ(助)」の項)、意味は「~より」や「~から」に似ている。「Aゆ来る」は、Aを経験経過し来る、ということであり、Aが来ることの起点であったりする。これが、「凝(こ)り」という現象の起点であるとはどういう意味かというと、Aが「凝(こ)り」の原因になる。「こり(凝り)」は存在情況が生じることを表現し、「退(の)く」こと、去り、なくなること、が原因となってなにかのものやことが存在することが「のきゆこり(退きゆ凝り)→のこり」。たとえば、もう季節は秋になり、夏は去ったがなぜかそこに夏の花がまだ咲いていたとき、それは夏は去ったが夏が原因となってそこにあるものであり、それは「夏ののこり」たるもの。ある小さな空間だけがまだ夏の景色であれば、それは夏の「のこり」たること。野に、あきらかになんらかの獣により食われたと思われる動物の死骸があった場合、その死骸は、獣が食ったことが去り、それにより、それが原因となり存在化したものであり、「獣の食ひのこり」。他動表現は「のこし(残し)」。「のこらず~(残らず~)」は、すべて~、の意。
「残(のこ)りたる(能許利多留)雪に交(まじ)れる梅の花早くな散りそ雪は消(け)ぬとも」(万849)。
「故常陸親王(ひたちのみこ)の、末にまうけて(晩年にもうけて)いみじうかなしうかしづきたまひし(とても可愛がり大切に育てた)御女、心細くて残りゐたるを(親王が亡くなったのち、のこされたように心細く居たのを)」(『源氏物語』)。
◎「のこし(残し)」(動詞)
「のこり(残り)」(その項)の他動表現。残る状態にすること。自動・他動の関係は「かり(借り)・かし(貸し)」、「たり(足り)・たし(足し)」、「なり(鳴り)・なし(鳴し)」のようなもの。活用語尾S音の動感が他への働き性・他動感を表現する。
「妹がため命遺(のこ)せり刈り薦(こも)の思ひ乱れて死ぬべきものを」(万2764)。
「ちりぬともかをたにのこせ梅花こひしき時のおもひいてにせむ」(『古今和歌集』)。