◎「のき(軒)」

「のき(退き)」。動詞「のき(退き)」は自分自身を何かから遊離させることですが、これは他動表現もある(「のき(退き)」の項)。ここでは他動表現のそれ。他動表現は後(のち)は一般に「のけ(退け)」。すなわち、「のき(軒)」は、なにかを退(の)けるもの、という意味ですが、なにを退(の)けるのかというと、日差しや雨。この語は、屋根の、家の壁側面からさらにそれを超えて伸びた部分を言う。窓上辺などには、それが独立して設置されたりもする。用途は、日差しや雨を直接全面的に受けないようにするためです。軒下(のきした)の空間部分を「のき」ということもある。

「我が宿の軒(のき:甍)にしだ草生ひたれど恋忘れ草見れどいまだ生ひず」(万2475:「甍」は、やね、とも読まれている)。

「檐 ………和名能岐 屋檐也」(『和名類聚鈔』「檐(タン)」は、のき(軒)、や、ひさし(庇))。

「嶺(みね)に日(ひ)や 今朝(けさ)はうららに さしつらむ 軒(のき)の垂氷(たるひ:つらら)の 下(した)の玉水(たまみづ)」(『曾丹集』)。

 

◎「のぎ(芒) 」

「なよきり(弱錐)」。「なよ(弱)」は、「なよなよ」という擬態表現もありますが、「なえ(萎え)」の語尾O音化によりそうした情況(力が喪失した情況)にある対象を表現したもの。「なよび」という動詞や「なよびか」という情況表現もある。「きり(錐)」は細い穴をあける工具の名。「なよきり(弱錐)→のぎ」は、なよなよとした錐(きり)(のようなもの)、の意。稲籾(いねもみ)の先端についている細く尖った毛のような部分の名。「のぎ(芒)」は「はしか(芒)」とも言う。これは「はしから(嘴殻)」。長い嘴(くちばし)のような殻(から)の意。その形状の印象による名。

「稲 …………芒 和名乃木 禾穂芒也…」(『和名類聚鈔』)。「鯁 ……和名乃木 魚刺在喉又骨鯁也」(『和名類聚鈔』:つまり、喉につかえた魚の骨も、形の類似から、「のぎ」と言う、ということであり、後半部は漢語「鯁(コウ)」の意味説明。「鯁(コウ)」は『説文』に「魚骨也」とされる字。『廣韻』には「鯁(コウ)」は「刺在喉 又 骨鯁謇諤之臣(大胆かつ誠実に発言する臣)」とあり、『和名類聚鈔』の説明はそれに影響されているのでしょう)。

「我(わ)がまもる なかての稲(いね)も のぎは落(お)ちて むらむら穂先(ほさき) 出(い)でにけらしも」(『曾丹集』)。