◎「のがれ(逃れ)」(動詞)
「のきあれ(退き離れ)」。何かから退(しりぞ)き(自分を「おき(措き)」(その項))、散逸する(「あれ(離れ)」(その項)る)、こと。「のき(退き)」「あれ(離れ)」はそれぞれその項。
「會明(あけぼの)に、高麗(こま)、膳臣等(かしはでのおみら)遁(のが)れたりと謂(おも)ふ。軍(いくさ)を悉(つく)して來(きた)り追(お)ふ」(『日本書紀』:この「遁(のが)れ」は、逃げた、のような意。高麗(こま)が新羅(しらき)側の膳臣等(かしはでのおみら)が逃げたと思った)。
「これやこの 我にあふみをのがれつつ 年月ふれど まさりがほなき」(『伊勢物語』:男から離れた女に、長い歳月を経て会った際の男から女への歌)。
「『…さかさまに行かぬ年月よ。老いはえ逃れぬわざなり』」(『源氏物語』)。
「『大殿も、かやうの御遊びに心止(とど)めたまひて、いそがしき御政事どもをばのがれたまふなりけり』」(『源氏物語』)。
「『…して見りやァ、マァ、こなさんも、あんまり又助と遁(のが)れた仲ぢやァねぇ』」(「歌舞伎」『勝相撲浮名花触』:無関係と言えるような仲ではない)。
「『…人伝てにけしきばませたまひしには(人づてに関心と熱意をしめしてきたときには)、とかくのがれきこえしを…』」(『源氏物語』:とかくかかわりにならないようにしたが)。
◎「のが(逃し)」(動詞)
「のがれ(逃れ)」(その項)の他動表現。逃れた状態にすること。
「ここに伊予国の住人武智武者所清教(たけちのむしゃどころきよのり)進み出でて、「たとひ何者にてもあらばあれ敵の方より出で来たらんずる者をのがすべきやうなし」 とて男鹿二つ射留めて妻鹿をば射でぞ通しける」(『平家物語』)。
「もろもろの災難をのがさしめ給へ」(「滑稽本」『七偏人』)。