◎「の(野)」

「にほほ(似頬)」。似(に)た頬(ほほ)。頬ではないが頬のようなもの(地)。山裾に広がるような、頬(ほほ)を思わせるようななだらかな起伏になっている地形部分を言う。そこは、通常、草が生(お)う。鋭角的凹凸の印象のある岩場は言わない。人里(ひとざと)に対する、人の生活から遊離した自然地の印象もある。

「…青山に 鵼(ぬえ)は鳴きぬ さの(佐怒:さ野)つ鳥(どり) 雉(きぎし)はとよむ…」(『古事記』:「さ野(の)」の「さ」は、「早苗(さなへ)」「さゆり(小百合)」にあるような、情況動感を表現するそれ(その項))。

「秋の野のみ草刈り葺(ふ)き宿れりし宇治の宮処(みやこ)の仮廬(かりいほ)し思ほゆ」(万7)。

「春の野(の:怒)に鳴くや鴬なつけむと我が家(へ)の園に梅が花咲く」(万837)。

「野 ……郊牧外地……和名乃」(『和名類聚鈔』)。

「野山(のやま)」。「野原(のはら)」。「野兎(のうさぎ)」。「野放(のばな)し」。「野辺(のべ)送り」。

 

◎「の(幅)」

「なほ(直)」。ある長さが直(なほ)に、途切れず延々と、続くその長さ。ある長さの直線があった場合、その直線が、直線進行方向に、縦に、ではなく、横に進行していくそのある長さ。つまり、帯状のものの幅(はば)です。これは、主に、着物をつくる布にかんし言われ、その場合、歴史的に形成されているその長さ(布の幅)は、メートル法で言えば、約三十六センチ。これが「一幅(ひとの)」。以下「二幅(ふたの)」「三幅(みの)」…になっていく。

「をみなへし いかにぬへはか ふちはかま ひとのもあらす ほころひぬらむ」(『内大臣家歌合』元永二(1119)年)。

「寝殿は……………御座所(おましどころ)九(ここの)のなる蓆(むしろ)敷きたり」(『宇津保物語』)。