「にへひき(荷へ引き)」。「にへ」は「ね」のような音になり、E音とI音の連音がU音になっている。たとえば、野を行く者が、暑さを感じ、上に着ているものを体から離しこれを荷にした場合、彼はそれを「ぬいだ(脱いだ)」。それが「にへひき(荷へ引き)→ぬき」。この語は元来は「ぬき」と清音だった。濁音化はそれによる動態の持続表現でしょう。自動表現は「ぬげ(脱げ)」。
「我妹子が形見の衣下に着て直(ただ)に逢ふまでは我れ脱(ぬ)かめやも」(万747)。
「(父母や妻子を)穿沓(うけぐつ)を 脱き棄る(ぬきつる:奴伎都流)ごとく 踏み脱きて(ふみぬきて:布美奴伎提) 行くちふ人は」(万800)。
「脱 ………ヌグ」「袒 ………ハタカ ヌグ」(『類聚名義抄』) 。
「(中宮の)おはします陣の前は、笠をだにこそぬぎて渡りはべれ、かくえもいはぬ者ども(下賤のものら)の、おはしますめぐりに立ちこみて、御簾をも引きかなぐりなどして…」(『栄花物語』:古くは、笠(かさ)を着(き)る・脱(ぬ)ぐ、と言った。ただし、柄のついた傘(かさ)は、さす)。