「にへひき(に経引く)」。「にへ」が「ね」になりE音とI音の連音はU音化し「にへひき→ぬき」となった。「に」は、「ここにある」のように、所在を表現する助詞になっているそれであり、「にへひき→ぬき」は、なにかを、なにかのものやことに所属したり帰属したりしている状態を経(へ)つつ引(ひ)く(自己へ自縮的に進行させる)、こと。自動表現「ぬけ(抜け・貫け)」。「ぬけ(抜け・貫け」の他動表現「ぬかし」(「ぬかしやがって」)。「ぬかし」の自動表現「ぬかり」(「ぬかりなく」)。「ぬかれ」は「ぬき(抜き・貫き)」の受け身。

「戯奴 變云 わけ(和気) がため我が手もすまに春の野に抜(ぬ)ける茅花(つばな)ぞ食(を)して肥えませ」(万1460)。

「橘(たちはな)は 己(おの)が枝枝(えだえだ) 生(な)れれども 玉(たま)に貫(ぬ)くとき(農矩騰岐) 同(おや)じ緒(を)に貫(ぬ)く(農俱)」(『日本書紀』)。

「…難波津に 船を浮(う)け据ゑ 八十楫(やそか)貫(ぬ)き 水手(かこ)ととのへて 朝開き 我は漕ぎ出ぬと 家に告げこそ」(万4408)。

「天地(あめつち)の神を祈りて猟矢(さつや)貫(ぬ)き(佐都夜奴伎)筑紫の島を指して行く我れは」(万4374:「猟矢(さつや)」は狩猟用の家であり、戦闘なら、実戦用の矢になる。それを「ぬく」とは、たぶん、それを選び装備し、の意)。

「み吉野の青根が峯の蘿(こけ)むしろ誰れか織りけむ経緯(たてぬき)なしに」(万1120:織物の横糸を「ぬき」と言いますが、経糸(たていと)の間をぬくからであろう)。

「カクノ如クシテ、人ノ目ヲヌキテ、偽(イツハ)リ計(カゾ)ヘテ、商内(アキナイ)ナトスル時ハ」(『三社託宣略鈔』)。

「『ぬかれはせまひぞ。あゝはらたちや』」(「狂言」『鏡男』:「人の目をぬき」が気づかぬ間になにかをし→だまし、という意味になり、「ぬかれ」はそうされという意味。つまり「ぬき」の受け身)。

「紫の糸をぞ我(わ)が搓(よ)るあしひきの山橘を貫かむと思ひて」(万1340)。

「むかし、色このむ男ありけり。いかにもして娼婦(おやま)に思はれむと、心をつくしけれど、やゝもすれば、茶屋あげやの亭主、子息(むすこ)、役者、楽頭持(たいこもち)などに、ぬかれけり」(『癇癖談(くせものがたり)』:これは、かけっこでぬかれ、などと同じ。先にいかれてしまった)。

「困難な仕事をやりぬく」。「気をぬく」。「手をぬく」。