◎「ぬか(額)」

「にゆかつく(土床突く)→ぬかづく」という語から「ぬか」が顔面前面上部、眉から毛の生え際あたりを意味する語となった。「に(土)」は後世で言う「つち(土)」を意味し、「にゆかつく(土床突く)→ぬかづく」は、(自分がいる)土や、床(ゆか)にいれば床(ゆか)を突(つ)く(直線状に進行させ何かに動態同動させ活性化させる)、ということですが、これは床などに伏し頭部でその床などを突くような動態になることを表現し、この動態は神に対するそれなどで自然発生であり、この「ぬかづき」が、「ぬか」を(地や床に)付(つ)く、「ぬか」で(地や床を)突(つ)く、という印象になり、「ぬか」がその突(つ)く・付(つ)く身体部、すなわち、顔面前面上部、眉から毛の生え際あたりを意味する語となった。語の発生自体が独特であり、さほど一般的という語ではない(「ぬか(額)」よりも動詞「ぬかづき(額づき)」のほうがむしろ一般的)。一般的には、この身体部位は「ひたひ(額)」、さらには、江戸時代以降の俗語として「でこ」(凸)や「おでこ」と言う。「ぬかがみ(額髪)」は後世で言う「まへがみ(前髪)」。

「我妹子が額(ぬか)に生(お)ひたる双六のことひ(事負)の牛の鞍の上の瘡(かさ)」(万3838:二句「額尓生流」は、ひたひにおふる、とも読まれる。これは「心の著(つ)く所無き歌」とされるもの。つまり、ナンセンスな歌です。宴席での余興たる戯歌でしょう)。

「額 ヒタヒ ヌカ」(『類聚名義抄』)。

「徳道(僧の名)、力なくして、(十一面観音を)とく造りがたし。悲しび歎きて、七八年が間この木に向ひて、「礼拝威力(らいはいゐりき)、自然造仏(じねんざうぶつ)」と言ひて額(ぬか)をつく」(『(東寺観智院本)三宝絵詞』「長谷菩薩戒」)。

「相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後方(しりへ)にぬかづく(額衝)ごとし」(万608)。

「肥人(ひいひと)の額髪(ぬかがみ)結へる染木綿(しめゆふ)の染(し)みにし心我れ忘れめや」(万2496:一句「肥人」は、一般に「ひびと」や「くまひと」「こまひと」などと読まれる。「ひいひと」という読みはここだけです。なぜそう読むかにかんしては国名たる「ひ(肥)」の項)。

 

◎「ぬか(糠)」

「ぬけは(抜け端)」。玄米を精白した際に米が抜けた印象で残るその端の印象のもの、の意。稲種の種皮・外胚乳などの粉末。

「大汝(おほなむち)の命、下鴨の村に稲を舂(つ)かしめしに、散らる糠(ぬか)、この𦊆(をか)に飛び到りき。故、糠(ぬか)の𦊆(をか)といふ」(『播磨風土記』)。

「糠 和名沼賀 米皮也」(『和名類聚鈔』)。