・「ぬ」(終止形)

「狭井河(さゐがは)よ 雲立ちわたり 畝火山(うねびやま) 木の葉騒(さや)ぎぬ(奴) 風吹かむとす」(『古事記』歌謡21)。

「…敷栲(しきたへ)の 衣の袖は (涙に)とほりて濡れぬ(奴)」(万135)。

「…にほ鳥の なづさひ行けば 家島は 雲居に見えぬ(奴)」(万3627)。

「勘問(カムカヘトヒ)賜(タマフ)ニ毎事(コトゴトニ)實(マコト)ト申(マヲシ)テ皆(ミナ)罪(ツミ)ニ伏(フシ)ヌ(奴)」(『続日本紀』宣命19)。

「印南野(いなみの)は行き過ぎぬらし(奴良之)天(あま)伝ふ日笠(ひかさ)の浦に波立てり見ゆ」(万1178:「~ぬらし」。「~らし」は動詞終止形に接続する)。

「咲きぬべきほどの梢、散りしをれたる庭などこそ…」(『徒然草』:「~ぬべき」。「~べし」は動詞終止形に接続する)。

「いざ子ども早く日本(やまと)へ大伴の御津の浜松待ち恋ひぬらむ(奴良武)」(万63:「~ぬらむ」。「~らむ」は動詞終止形に接続する)。

「秋去れば置く露霜にあへずして都の山は色づきぬらむ(奴良牟)」(万3699:「~ぬらむ」)。

「指を差しつつ、𫢏(うつぶゐ)ぬ仰(あふのき)ぬして語り居れば…」(『今昔物語』:「𫢏」は「低」のつもりで書かれているのでしょう。「行きつ戻りつ」のように、「~ぬ~ぬ」という表現が有る)。

 

・「ぬる」(連体形)

「女御とだに言はせずなりぬるが、あかず口惜しう思さるれば」(『源氏物語』)。

「追風の吹きぬる時はゆくふねの帆手うちてこそうれしかりけれ」(『土佐日記』)。

「都いでゝ君に逢はむとこしものをこしかひもなく別れぬるかな」(『土佐日記』:「ぬるかな」。「~かな」は、動詞の場合、連体形に接続する)。

 

・「ぬれ」(已然形)

「雲間より 渡らふ月の 惜しけども 隠らひ来れば 天伝ふ 入日さしぬれ(奴礼)…」(万135)。

「「…法花経を読誦して失ぬれば、必ず悪道を離れぬ」とぞ、見聞く人、貴びけりとなむ語り伝へたるとや」(『今昔物語』:「ぬれば」)。

 

・「ね」(命令形)

「『…「…この思ひおきつる宿世違はば、海に入りね(入水自殺せよ)」と、常に遺言しおきてはべるなる』と聞こゆれば…」(『源氏物語』)。