・「な」(未然形)
「…青山に 日が隠らば ぬばたまの 夜(よ)は出でなむ…」(『古事記』歌謡4::「なむ」の項(2月20日)の「四種の「なむ」」の「・「咲きなむ」「裂けなむ」」。下二段活用動詞「いで(出で)」の連用形に「なむ」)。
「五月こは(来ば)なきも(鳴きも)ふり(古り)なむ郭公(ほとときず)またしきほとの(未熟な)こゑをきかはや」(『古今和歌集』:これも「なむ」の項の「四種の「なむ」」の「・「咲きなむ」「裂けなむ」」。「ふり(古り)」は上二段活用。これはその連用形)。
「うち靡(なび)く春ともしるく鴬は植木の木間(こま)を鳴き渡らなむ(奈牟)」(万4495:これは「なむ」の項の「四種の「なむ」」の「・「咲かなむ」「裂けなむ」」。この「なむ」の「な」は、その全体的均質性により相手になにかをすすめたり相手を同意させようとしたりする「な」。前二者のような、具体的な動態の完了が表現されるわけではない)。
「妹が家に咲きたる花の梅の花実にしなりなば(名者)かもかくもせむ」(万399:これは「なば」。「海行かば」のように、「ば」が未然形に接続している。已然形に接続している場合は後記(「な」(已然形)の部)。この「実にしなりなば」は「実にしならば」でも決定的に意味が変るわけではありませんが、実がなったその時の情況が強調される)。<br/>
「我が背子が国へましなば(奈婆)霍公鳥(ほととぎす)鳴かむ五月は寂しけむかも」(万3996:これも「なば」)。
「用ありて行きたりとも、そのことはてなば、とく帰るべし」(『徒然草』:これも「なば」)。
・「に」(連用形)
「秋風の吹きにし(尓之)日よりいつしかと我が待ち恋ひし君ぞ来ませる」(万1523:「~にし」。これも「吹きし日」でもさほど意味が変るわけではないが、秋風の吹いた日が強調される)。
「水鳥の立たむ装ひに妹のらに物言はず来にて(伎尓弖)思ひかねつも」(万3528:「~にて」)。
「梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにて(奈利尓弖)あらずや」(万829:「~にて」)。
「名にめてて(愛でて) をれる(折れる)はかりそ をみなへし(女郎花) 我おちにきと 人にかたるな」(『古今和歌集』:「~にき」)。
「此たびにはかにて、(舞の)おさめの手もわすれ候(さぶらひ)にたり」(『宇治拾遺物語』:「~にたり」)。