◎「にらぎ(焠ぎ)」(動詞)

鉄、とりわけ刀剣、を鍛冶する際、赤熱した鉄を打ち、水に浸すことを言う。鉄の高温急冷は鉄を固くする。緩冷は柔らかくする。「にひランひき(似火爛引き)」。「爛(ラン)」は、「絢爛(ケンラン)」などと言われる場合の、美しく輝く、という意味のそれ。「にひランひき(似日爛引き)→にらぎ」は、日(太陽)のような美しい輝きを引く、ということ。引いてどうするかというと、その刀剣へ引き、封じ込める。

「焠 ……ニラク」(『類聚名義抄』:「焠(サイ)」は『説文』には「堅刀刃也」とあり、『廣韻』には「天官書(『史記·天官書》』)曰火與水合爲焠」と書かれるような字。火と水があうことが「焠」だそうである)。

 

◎「にらみ(睨み)」(動詞)

「いにいらみ(射に苛見)」の四段活用動詞化。語頭の「い」は無音化した。「い(射)」はその項、矢を射る、などのそれ。「に」は動態の状態を表現する助詞。「いら(苛)」は心情昂進情動にあることを表現する→その項。「いにいらみ(射に苛見)→にらみ」は、射(い)る動態で心情昂進し見ること。通常は人を見る。視線はそこを動かず、憤怒の表情をともなっていたりする。

「物部守屋大連(もののべのもりやのおほむらじ)、耶睨(にら)みて大(おほ)きに怒(いか)る」(『日本書紀』)。

「帝の御夢に、院の帝、御前の御階(みはし)のもとに立たせたまひて、御けしきいと悪しうて(非常に機嫌が悪い様子で)、にらみきこえさせたまふを(にらんでいらしたので)、かしこまりておはします(ただかしこまっていた)」(『源氏物語』)。