◎「によひ(吟ひ)」(動詞)
「にエイおほひ(似詠覆ひ)」。「詠(エイ)」は声を長く引いて詩などを謡うこと。その「詠(エイ)」のような声が環境を覆(おほ)ふ―それが「にエイおほひ(似詠覆ひ)→によひ」。唸(うな)り、や、呻(うめ)き、に意味は似ている。発声の動因は様々ですが、たいてい苦痛に耐えている。
「却(しりぞ)くに随(したが)ひ(ある場所からしりぞくにしたがひ。つまり、遠ざかるにつれ)先の如くまた呴(さけ)び呻(によ)ふ………呴 サケヒ……呻 ニヨフ」(『日本霊異記』)。
「たごし(手輿)つくらせ給ひてにようにようになはれ(担われ)たまひて家に入(いり)たまひぬるを…」(『竹取物語』)。
「(酒を強いて飲まされた人は)あくる日まで頭いたく、物くはず、によひふし、生をへだてたるやうにして…」(『徒然草』)。
◎「にら(韮)」
これは草性植物の一種の名ですが、古くは「みら」とも言った。「かみら」「くくみら」といった語もある。「みにいら(女似高)」。「みんら」のような音(オン)を経「みら」になり、語頭が無音化し「にら」になる。古く、女を意味する「み」があった→「み(女)」の項。「に(似)」はなにかのようだ、ということであり、「いら(高)」は突起的に秀でているなにかですが→「いら(高)」、(たとえば薔薇(ばら)の)刺(とげ)も意味する。「みにいら(女似高)→みら・にら」は、女のように鋭く尖ったようにのびているもの、の意。細い刺のようにのびている。しかし、それは女性的であり柔らかくなよなよとしている。この植物の葉がそのような印象なのです。
この植物は古くは薬として、すなわち薬草として、扱われた。これが家庭における野菜として普及していくのは20世紀後半からです。各種栄養素の栄養価は非常に高い。
「従今朝服薬 ニラ」(『殿暦(デンリャク)』康和4(1003)年の記事)。
「韮 ……コミラ…ニラ」(『類聚名義抄』)。
「薤 ………和名於保美良」「韮 ………和名古美良」(『本草和名』)。
「蒠 ……韮也 𣃥良也」(『新撰字鏡』:原文は手書きですが、「𣃥」とかいてあるように読める。音(オン)は「ニ」でしょう)。
「…粟生(あはふ)には韮(かみら:賀美良)一本(ひともと)」(『古事記』歌謡2:「かみら」は、香韮、でしょう。この歌では、臭いあいつら、のような意味になる)。
「伎波都久(きはつく)の岡のくくみら(久君美良)我れ摘めど籠(こ)にも満たなふ(満たない)背なと摘まさね(都麻佐祢)」(万3444:「摘まさね」は使役でしょう。あの人と摘まさせてよ、ということ。「伎波都久(きはつく)の岡」は未詳)。