◎「にほはし(匂はし)」(動詞)
「にほひ(匂ひ)」の使役型他動表現。影響を覆わせること、とりわけ、赤系の色彩感で覆わせること。「にほひ(匂ひ)」はその項。「紅(くれなゐ)の衣にほはし」。「にほひ(匂ひ)」が嗅覚刺激を意味するようになると、「にほはし(匂はし)」はその意味での匂いを感じさせることも意味し、言外にそれとなく意味を感じさせることも意味するようになる。
「紅(くれなゐ)の衣(ころも)にほはし(尓保波之)辟田(さきた)川絶ゆることなく吾(わ)れかへり見む」(万4157:この「にほはし」は紅が映えること。万4156に「…篝(かがり)さし なづさひ行けば 我妹子が 形見がてらと 紅の 八しほに染めて おこせたる 衣の裾も 通りて濡れぬ」とあり、万4157はそれに添えられている歌。「辟田(さきた)川」は未詳)。
「草まくら旅行く君と知らませば岸の埴生(はにふ)ににほはさ(仁寶播散)ましを」(万69:「埴生(はにふ)」は「埴(はに)」(その項)と呼ばれる少し赤みを帯びた黄色系の粘土が続く地)。
「引間野(ひくまの)ににほふ(仁保布)榛原(はりはら)入り乱れ衣にほはせ(尓保波勢)旅のしるしに」(万57)。
「いといたう心して、空薫物(そらだきもの)心にくきほどに匂はして…」(『源氏物語』:この「にほはし」は嗅覚刺激)。
「(朧月夜が)今なむとだに(出家すると)にほはしたまはざりけるつらさを、浅からず聞こえたまふ」(『源氏物語』:この「にほはし」はものごと(出家))。

◎「にほはし(匂はし)」(形シク)
「にほひはし(匂ひ愛し)」。「にほひ」が感嘆的であること。「にほひ(匂ひ)」にかんしてはその項。
「あざやかに匂はしきところは、(冷泉帝は夕霧(光源氏の息子)に)添ひてさへ見ゆ。」(『源氏物語』)。