◎「にほ(鳰)」
「にほほ(丹頬)」。「に(丹)」は赤系の色を意味する(その項)。これはある種の水鳥の名ですが、目の後ろから首にかけ、人なら頬(ほほ)にあたる部分が赤褐色であることによる名。この鳥は潜水と水中遊泳が巧みで、潜水時間が非常に長いことが知られる。別名・カイツブリ(此(こ)は何時(いつ)ぶり:これはいつからそこに…と思う鳥、の意。この鳥は潜水時間が長く、水中で移動し、思わぬところに浮かび出、そこに現れそこに居る)。
「䴙䴘 ………和名邇保 野鳬小而好没水中也」(『和名類聚鈔』)。
「鶙 尓保」(『新撰字鏡』)。
「又、かくて夕暮に、雨うち降りたる頃、中島に水の溜まれるに、鳰(にほ)といふ鳥の、心すごく鳴きたるを聞き給ひて…」(『宇津保物語』)。
「にほどり(鳰鳥:二寶鳥)の潜(かづ)く池水心あらば君に我が恋ふる心示さね」(万725)。
◎「にほのうみ(琵琶湖)」
「にひをのうみ(煮氷魚の湖)」。「ひを(氷魚)」は鮎の稚魚であり、「にひを(煮氷魚)」は釜揚げにした氷魚(ひを)。つまり、氷魚(ひを)白子(シラス)状にしたもの。琵琶(びわ)湖(滋賀県)の別称。古くから琵琶湖はこれが有名だった。ただし、水鳥の鳰(にほ)がいる印象でこの語が用いられた歌その他もあるでしょうし、歌などはすべてそれによるものでしょう。「別れにし我ふる里のにほの海にかげをならべし人ぞ恋しき」(『浜中納言物語』:鳰(にほ)は番(つがひ)でいることが有名)。「にほのみづうみ」とも言う。
「しなてるや におのみつうみ(湖) こく(漕ぐ)舟の まほ(真帆)ならねとも あひみし物を」(『源氏物語』:「しなてる」はその項(2022年11月24日))。