◎「にはし」(形シク)
「にひあはあはし(新淡淡し)」。何かが起こり、それは今起こり、それが何なのかまだ明確に把握できない情況にあることを表現する。
「にひ(新)」は、いままでなかったこと(その項)。「あはあはし(淡淡し)」は印象が空虚で漠然としている(「あは(淡)」の項)。いままでなかったことで印象が空虚、とは、今、明確な印象化がなりたたないほど突然、唐突に、ということ。
「潮舟(しほふね)の舳(へ)越そ(越す)白波(しらなみ)にはしくも(尓波志久母)負ふせたまほか(たまふか。「か」は詠嘆)思(おも)はへなくに」(万4389:東国・防人の歌。「思(おも)はへなくに」は、思(おも)ひ和(あ)へなくに(思いに全的に合一した状態ではなく→思いがけず))。

◎「にはたづみ(潦)」
「にひあたつうみ(新あ立つ海)」。「にひ(新)」は、いままでなかったなにか(その項)。「あ」は驚きの発声。(雨により)意外な進捗性をもって発生する海のような印象の表現。「流るる涙」(さらには「流れ」)、「行く水」、「川」といった語の枕詞のような用い方もなされる。
「爾(ここに)匍匐(は)ひ進み赴きて、庭中(にはなか)に跪(ひざまづ)きし時、水潦(にはたづみ)腰に至りき」(『古事記』)。
「潦 ……和名爾八太豆美 雨水也」(『和名類聚鈔』)。
「はなはだも降らぬ雨故にはたづみいたくな行きそ人の知るべく」(万1370)。
「…常もなく うつろふ見れば にはたづみ(尓波多豆美) 流るる涙 留めかねつも」(万4160)。