◎「にせ(似せ)」(動詞)
「に(似)」の他動表現。似るようにすること。「Aににせ」は、Aがそこにあるかのようにすること。「に(似)」にかんしてはその項(3月21日)。
「是(ここ)に、乳母(めのと)のまをすに由(よ)りて髑髏(みかしらのほね)相別(あひわ)くと雖(いへど)も、而竟(つひ)に四支諸骨(むくろみかぼね)を別(わ)くこと難(かた)し。是(これ)に由(よ)りて、仍(なほ)蚊屋野(かやの)の中(なか)に雙陵(ふたつのみささぎ)を造(つく)り起(た)てて、相似(あひにせ)て如一(ひとつ)なり。葬儀(はぶりのよそほひ)異(こと)なること無(な)し」(『日本書紀』顕宗元年二月)。
「「この籠は、金を作りて色どりたる籠なりけり。松もいとよう似(にせ)て作りたる枝ぞとよ」」(『源氏物語』)。
「木の花は………梨の花………唐土には……楊貴妃の、帝(みかど)の御使ひに会ひて、泣きける顔に似せて、「梨花一枝、春雨を帯びたり」など言ひたるは…」(『枕草子』:楊貴妃が泣いた顔を「梨花一枝、春雨を帯び」と梨の花にたとえて言語表現することを「似せ」と表現している。歌の世界では、そうした表現がなされたもの・ことを「にせもの(似せもの)」と表現したりもするが、それは、本物たる価値のない偽物、という意味の「にせもの(偽物)」ではない。それは、それがそこにあるかのように表現すること)。

◎「につかはし」(形シク)
「につきあひはし(似付き合ひ愛し)」。「につき(似付き)」は似た様子。それが合っていることの感嘆表明。
「『………』とぞいへる。幼(をさな)き童(わらは)の言(こと)にては、につかはし」(『土佐日記』)。
「「似つかはしからぬ扇のさまかな」と見たまひて…」(『源氏物語』:年齢やその人にいだいた印象に合わない)。