◎「にじり(躙り)」(動詞)
「ぬひしひいり(縫ひ強ひ入り)」。「ぬひ(縫ひ)」は進行感をもって一体化させていくことですが、その「ぬひ(縫ひ)」を、対象や相手のあり方や意思が不存在化している状態で(「しひ(強ひ)」)、進行させる(「いり(入り)」)こと。それが「ぬひしひいり(縫ひ強ひ入り)→にじり」。具体的には、たとえば、細い篠(しの)を何本か固いものの上に置き、これに手でその固いものに圧(お)しつけるように力を加え、その篠(しの)をその固いものにめり込ませでもするかのように、こすりつけるかのように、力を加え圧(お)しながら摺(すり)動かすことを繰り返す。それが「篠(しの)をにじる」。その篠(しの)に縫(ぬ)ひを強(し)ひる。あるいは、たとえば地に有るなにかに足でそれをおこなえば「踏みにじる」。あるいは、たとえば座敷で、坐した状態から半ば立ち、膝でなにかを畳にそうしているかのように進めば「にじり寄る」。茶室の「にじりぐち(躙り口)」は、それが入ることにそうしたにじり寄るような努力を要求する小さな入り口であることによる名。
「心諦理ニ疑(うたがふ)ハ践(ふみ)蹹(ニジ)ルガ如シ」(『法華経玄賛』平安初期点)。
「この姫君左の手しては顔を塞ぎて泣く。右の手しては前に矢の箆(の)荒作りたるが二三十ばかりあるを取りて手ずさみに節のもとを指にて板敷に押当ててにじれば朽木の柔かなるを押し砕くやうに砕くるをこの盗人目をつけて見るにあさましくなりぬ」(『宇治拾遺物語』:男がある家に押し入り、その家の女が人質のような状態になったが、その女が恐ろしく強力(ゴウリキ)だったという話)。
「膝行ハ膝ニテニジリ寄ルヲ云フ」(『蒙求聴塵』)。