◎「にげ(逃げ)」(動詞)
「いにいきえ(去に生き得)」。「い」は脱落した。どこかへ行き去ることで死をまぬがれること、さらには、ものごとを避け、かかわりにならぬよう保身すること。この表現は、原意としては、狩で追い、どこかへいなくなった獲物を表現したものでしょう。
「やすみしし 我(わ)が大君(おほきみ)の あそばしし 猪(しし)の 怒聲(うたき)畏(かしこ)み 我(わ)が逃(に)げ登(のぼ)りし(尼㝵能裒利志) 在丘(ありを)の上(うへ)の 榛(はり)が枝(えだ) あせを」(『日本書紀』歌謡76:「あせを」はその項)。
「『…女楽にえことまぜでなむ、逃げにけると、伝はらむ名こそ惜しけれ』」(『源氏物語』:「ことまぜ」は、ものごとの仲間入りする、のような意。「~でなむ」は、「~ずと経(へ)なむ」。「なむ」はその項(その「・「咲きなむ」「裂けなむ」」・2月20日))。
◎「にげかみ」(動詞)
「にがゑかみ(苦餌噛み)」。苦いものをためらいつつ幾度も噛みしめるように噛むこと。この表現が牛の反芻を表現する。牛の反芻は「にれかみ」とも言う。
「其(そ)の七日の夕,更(さら)に甦還(いきかへ:生き返)りて,棺(ひつぎ)の蓋(ふた)自(おのずか)ら開(あ)く。是(ここ)に棺(ひつぎ)に望(いた)りて見(み)れば,甚(はなはだ)臭(くさ)きこと比(たぐひ)無(な)し。腰(こし)より上の方は,既(すで)に牛と成り,額(ぬか)に角を生ふること長さ四寸ばかりなり。二つ手は牛の足となり,爪(つめ)皴(さ)けて牛の足の甲(ひづめ)に似たり。腰より下の方は人の形を成す。飯を嫌ひて草を噉(く)ひ,食(く)ひ已(をは)れば齝齝(にげか)む。反芻狀。」(『日本霊異記』)。
「𪡡 ……牛哨也 牛乃尓介加牟」(『新撰字鏡』)。