◎「にき(和)」
「いにいき(去に息)」。吐気が静かに柔らかく流れ広がっていくような印象であること。流れ広がっていく吐息は彼方へ消えていき融和する。すべてが和(やは)らぎ穏やかになっていく印象です。「にき御魂(みたま)」。「にき肌」。「にき栲(たへ)」。これの動詞化「にきび(和び)」は「あらび(荒び)」の逆意であり、和(やは)らぎ穏やかになること。
「及(また)海若等(わたつみたち) 大神(おほかみ)の和魂(にきみたま)は静(しづ)まりて 荒魂(あらみたま)は皆悉(ことごとに)猪麻呂(ゐまろ)が乞(の)む所(ところ)に依(よ)り給(たま)へ」(『出雲国風土記』)。
「王(おほきみ)の親魄(にきたま)あへや豊国の鏡の山を宮と定むる」(万417)。
「和霊(にきたま)の 衣(ころも)寒(さむ)らに ぬばたまの 髪は乱れて」(万1800:これは「足柄の坂を過ぎて、死(みまか)れる人を見て作れる歌」の一節ですが、「にきたま(和霊)」という語が、亡骸となった名の知れない人への敬いの念をあらわす用い方がなされている)。
「…嬬(つま)の命(みこと)の たたなづく 柔膚(にきはだ)すらを 剣刀(つるぎたち) 身に添へ寝ねば…」(万194:「柔膚」は「やははだ」とも読まれる)。
「天皇(おほきみ)の 御命(みこと)畏(かしこ)み にきび(柔備)にし 家を釋(すて)」(万79:「釋」は「おき」とも読まれる)。

◎「にぎ(賑)」
「ににいきき(瓊瓊行き来)」。「に(瓊)」は宝玉を意味する(その項・3月20日)。その二音連音はそれが複数であることを表現する。「ににいきき(瓊瓊行き来)→にぎ」は、多数の宝玉が行(い)き来(き)していることを表現しますが、これが、多くの人々が行き来し、交流し、それが宝玉が行き来しているような豊かなものであることを表現する。この語は、「にぎはひ(賑はひ)」、「にぎにぎし(賑賑し)」、「にぎやか(賑やか)」といった語になる。