◎「にえ(煮え)」(動詞)
「に(煮)」(3月21日)の自動表現。「に(煮)」の状態になること。「に(煮)」にかんしてはその項。
「『…その煮えたる湯を(鼠の)穴の口に汲み入れ給へ…』。……いふまま、煮かへりたる湯を穴の口に汲み入れたりけるほどに…」(『古今著聞集』)。
「煎 …イル ニル」(『類聚名義抄』)。
「にゆる茶の湯は、おもしろや」(「狂言」『通円』)。
◎「にえいり」(動詞)
「にえいり(煮え入り)」。「にえ(煮え)」はその項。「に(煮)」の自動表現。「いり(入り)」は、「驚き入り」その他のように、まったくなにごとかの動態になる、という意味のそれなのですが、まったく煮えた→加熱の作用が行きわたった、という意味ではなく、(煮汁の)味が浸みこんだ、という意味。つまり、「にえいり」は、しみこむ、しづみこむ、のような意味になる。
「船ニ乗ムトテ汀ニ向テ落ケレドモ、余ニ多クコミ乗タリケレバ、目ノ前ニ大船二艘ニヘ入タリ」(『(延慶本)平家物語』)。
「かのむすめ かねのもとに たつねきて にはかに 大じやとなりて(大蛇となりて) かねをまき(鐘を巻き) 大ぢ(大地)ににえ入けり」(「御伽草子」『磯崎』)。
◎「にえこみ」(動詞)
「にえこみ(煮え込み)」。「にえ(煮え)」はその項。「に(煮)」の自動表現。「こみ(込み・混み)」は凝縮すること(その項)なのですが、この表現が「にえいり」(その項)と同じような意味にもなり、また、(味が浸みこんで)仕上がる、のような意味にもなる。
「在所より強力(がうりき)進み出でて才兵衛と引組んで、(才兵衛を)何の手もなく宙にさし扛(あ)げ落しけるほどに、捨船の荒磯に埋もれし如く、大方は真砂に熱(に)え込み、胴骨(あばらぼね)砕けて…」(「浮世草子」『本朝二十不孝』:この「にえこみ」は、めりこみ、のような意)。
「何ぢや短(みじか)い女子ぢや。どれどれ成程どれもこれも能(よ)う煮え込んだ者ぢや」(「浄瑠璃」『妹背山女庭訓』:「短(みじか)い」は、満ちることと廃(し)ひることが近接している、のような意味ですが、この場合は女子の社会的な意味や価値、その人間性の尊さや卑しさにかんして言われ、それが低いと言っている(「みじか(短)」の項))。