「な」は均質感を表現する→「な(助・副)」の項(2024年12月10・11・12日)。活用語尾はR音による情況感が語尾E音による客観的主体の自動的動態が表現されている。「なれ(馴れ・慣れ・熟れ)」は、何かとの関係において均質感を生じた状態になること。「犬がなれ(馴れ)」。「仕事になれ(慣れ)」。「なれずし(熟鮨)」。
「苗代(なはしろ)の小水葱(こなぎ)が花を衣(きぬ)に摺(す)りなるる(奈流留)まにまにあぜか愛(かな)しけ」(万3576:東歌)。
「…石上(いそのかみ) 布留(ふる)の里(奈良県天理市)に 紐解かず 丸寝(まろね)をすれば 我が着たる 衣(ころも)はなれぬ…」(万1787:これは旅での歌ですが、ともにいる、というような思いで、妻が(服の下に)自分の衣類を夫に着せているのかもしれない。その服が自分に寄り添うようになじんでくる、という歌)。
「その年の夏、御息所(みやすどころ:桐壷の更衣)、はかなき心地にわづらひて、(里(実家)へ)まかでなむとしたまふを、(帝は(そばに居させたいあまり))暇(いとま)さらに許させたまはず。年ごろ、常のあつしさ(病態の程度)になりたまへれば、御目馴(な)れて…」(『源氏物語』)。
「塩をいたす事もなく高く買たる肴にて能と斗思ひ、くさるといふ心がけもなくて、取出て料理の時魚のなれたるせんさくもなく」(『甲陽軍鑑』:習熟した穿鑿(センサク))。
「なれごろも(なれ衣)」(着慣れ、身になじみなれた衣)。
「『………』と、憚りもなく聞こゆ。心やすく若くおはすれば、馴れきこえたるなめり」(『源氏物語』:同質ではないという前提がありつつ、低質なものが高質なものへ同質な均質感を生じた状態になった場合、「なれ」は相手を、侮(あなど)っている、という印象になる。Aと同質という前提がありつつ、低質なものがAに関連してあった場合、それはAにしては粗末なものになる)。「黷 ………阿奈止留又奈礼太利」(『新撰字鏡』)。「(牛車の)網代(あじろ)のすこしなれたるが、下簾垂(したすだれ)のさまなどよしばめるに、いたう引き入りて(牛車の、奥に引きこもるように入っていた)…」(『源氏物語』)。