◎「なるたけ(成丈)」
「なりフたけ(成歩長)」。「なりフ(成歩)→なる」にかんしては「なるほど(成程)」の項(3月13日)。「たけ(長)」は自発的発生限界→「たき・たけ」の項(その「たけ(発生け・長け)」の項・2023年9月28日)。「なりフたけ(成歩長)→なるたけ」は、能力としてある潜在的能力限界で、という意味になり、できるかぎり、といった意味になる。
「なるたけ堪(こら)へる侍が、青うなり赤うなり、つく息さへも絶え絶えに…」(「浄瑠璃」『近江源氏先陣館』)。
「たとへば鳥目(てうもく)百やろとおもふならば二百文。また二百なら三百文四百文と、おもふたよりはなるたけ余慶にしてやるがよい」(「滑稽本」『続道中膝栗毛』:「鳥目(てうもく)」は銭(ぜに)の異称)。
◎「なるべく(成可)」
「なりフベック(成歩別駒)」。「なりフ(成歩)→なる」にかんしては「なるほど」の項。「ク」は「駒」の音(オン)であり、将棋の駒(こま)を意味する。「なりフ(成歩)」が別の駒(こま)、とは、今動かしている歩(フ)が成金(「なるほど」の項)にならなかったとしても、別にそうなる駒があればそれを活かして、ということ。つまり、できうるものならば、のような意味になる。
この語は文献では明治期から現れるようですが、江戸時代末期からある語なのでしょう。
「されば娼妓(うかれめ)は成(なる)べくだけ手練手管を是(これ)研(みが)きて…」(『当世書生気質』(1885-6(明治18-9)年)坪内逍遥:坪内逍遥は安政6(1860)年生。これは「なるべく」と「なるたけ」が合成しているような表現)。
「成(な)るべく喧嘩は爲(せ)ぬ方が勝だよ」(『たけくらべ』(1895-6(明治28-9)年)樋口一葉)。