「なりはひ(業這ひ)」。「なり(業)」はその項(3月8日)。「なり(業)」の情況にあること(生業・職業)・もの。もの、とは、なされたなにかであり、農産物であれなんであれ、有形無形の生産物。「なり(業)」たる「なり(成り)」は他動表現の名詞化であり(→「なり(成り)」「なり(業)」の項)、成立させる・完成させる情況になること、その努力によりあるもの、成ったもの、成果、を意味し、「なりはひ」は古くは、というよりも原意は、農産物を言う。また、生業や職業も言う。
「万調(よろづつき) 奉(まつ)るつかさと 作りたる そのなりはひ(奈里波比)を 雨降らず 日の重なれば 植ゑし田も 蒔きし畑も 朝ごとに しぼみ枯れゆく…」(万4122:「つかさ」は、貢献、や、奉仕、の意のそれ(→「つかさ」の項(2024年4月6日)。「つかさ」には、司・官の意、塚の意、貢献や奉仕の意の三語ある))。
「産 ……ナリハヒ」「農 …ナリハヒ」「家業 ナリハヒ」(『類聚名義抄』)。
「『あはれ、いと寒しや(ああ、寒い)』『今年こそ、なりはひにも頼むところすくなく…』」(『源氏物語』:これはこういう「賤(しづ)の男(を)」の会話が聞こえてくるという描写ですが、なにかの商(あきな)ひをやっているらしい)。