◎「ならし(均し・馴らし)」(動詞)
「なれ(馴れ)」(→「なれ(馴れ・慣れ・熟れ)」の項)の他動表現。「なれ(馴れ)」の状態にすること。均質感を生じた状態にさせることです。物的形状・計測量(→「地を均(なら)す」(平らにする)「(雪が)深さ二尺五寸ならしに積もる」)にも、ある動態とある動態(→「慣らす」(抵抗感の無い状態にする))にも言う。物(材料)と物(材料)にも(そのあらわれたる質と質にも)言う(たとえば塩辛をしばらく置いておいて味をならす)。いずれにしても、様々な意味で均質化させること。
「龍駒之子 方乃 馴(ナラシ)駕る」(『大東西域記』)。
「(賀の日を)十余日と定めて、舞ども馴らし、とののうちゆすりてののしる」(『源氏物語』:練習させ、のような意味になる。「ののしる」は、声が飛び交い騒がしい状態になること)。
「すべて人の振舞は、おもらかに詞(ことば)ずくなにて、人をもならさず、人にもならされず、笑(ゑ)を笑はず、戯れ好まず…」(『十訓抄』:そういう人は「心の中は知らず、よきもの(人)かなと見え」る。しかし……と『十訓抄』は言う)。
「青柳(あをやぎ)のはらろ(張れる)川門(かはと)に汝(な)を待つと清水(せみど:しみづ)は汲(く)まず立処(たちど)平(なら)すも(奈良須母)」(万3546:東国の歌)。
◎「ならはし(習はし)」(動詞)
「ならひ(習ひ)」(その項)の使役型他動表現。「なれははし(馴れ這はし)」ということ。その使役が主体に働けば、たとえば「着ならはし」は、「着なれ」を自分に這はし、つまり、「(自分が)着なれ」、の意になり、他者に働けば、「着なれ」を他者に這はせ、他者を「着なれ」た状態にさせる→他者に「着(き)」を習(なら)はせる。さらには、人のあり方をならわせる、のような意味で言えば、思い知らせる、のような意にもなる。主体への「ならはし」が永く続けば、その名詞形「ならはし」(「ならはせ」という言い方もまれにある)は習俗や習慣のような意になる。
「月ごろくろう(黒う)ならはしたまへる御姿、薄鈍(うすにび)にて、いとなまめかしくて」(『源氏物語』:この月ごろ(喪で)黒い服でいらっしゃる…)。
「かくたいだいしくやはならはすべき、と仰らる」(『竹取物語』:「たいだいし」は、理解しがたい、や、同じ思いになりがたい、のような意→「たいだいし」の項・2023年9月9日。「ならはす」は、この場合は、(かぐや姫を)しつける、のような意味になる)。
「(源氏は玉鬘に)御琴などもならはしきこえたまふ」(『源氏物語』:琴を弾くことをいろいろと教えた)。
「『此の女に物習はさむ』と云て、………など、罵(のり)ければ…」(『今昔物語』:この女に人のあり方をしこんでやる、のような意味になる)。