◎「なまなま」
「なま(生)」が繰り返され強調されている表現ですが、あるものごとがそのものごととして受容できるのか、明瞭な判断がつかない、いい加減な、という意味になる。ただし、相当後世には「なまなまし」の意で言われることもある。「なま(生)」にかんしてはその項(2月9日)。
「爾(ここに)稍(やや)に其(そ)の御琴(みこと)を取(と)り依(よ)せて、那摩那摩邇(なまなまに) 此五字以音 控(ひ)き坐(ましき)」(『古事記』:その気もなくいい加減に弾(ひ)いた)。
「なまなまの上達部よりも、(受領で)非参議の四位どもの、………………たる、いとかはらかなりや(爽やかでは?)」(『源氏物語』:上達部(かんだちめ)の実態もないような上達部ということ)。

◎「なまなまし(生生し)」(形シク)
「なま(生)」によるシク活用形容詞。「なま」は、原意としては、あるものごとがそのものごととして受容できるのか、明瞭な判断がつかない、いい加減な、という意味であり、その意味の「なまなまし」もあるが、それが発展した意味、たとえば調理されていない肉材料に言うような、物的生体や死体が人工的関与なくそのまま、や、ものごとがそのまま、という意味の「なま」による「なまなまし」が後世では一般的な意味になっていく。「なま(生)」の意味にかんしてはその項。
「上臈権門たち数をしらず入給へば其内によろしからぬなまなましくあらあらしき歌もおほかるべく哉」(『ひとりごと』:いいかげんな歌)。
「今時(いまどき)のなまなましき男女が吾こそ悟道の者なりと云(いひ)て仏神を軽しめ仏教をあざけり…」(『糺物語』:仏の道にかんしいいかげんな男女)。
「君を思ひ なまなまし身を やく時は けぶりおほかる ものにぞありける」(『大和物語』)。
「夢(ゆめ)覚(さめ)て、枕辺(まくらべ)を見かへれば、島絹(しまぎぬ)に榛搨(はにずり)したる袿(うちき)の鮮血(ちしほ)に染(そみ)たると、なまなましき髑髏(どくろ)あり」(『椿説弓張月』)。
「そのときの傷がなまなましく残る」、「体験がなまなましく描かれる」。