◎「なます(膾)」
「なみます(波間巣)」。「す(巣)」は鳥の巣であり、波間(なみま)の巣(す)、とは、海(たとえば磯)にある巣(す)のようなもの、という表現。これは料理名であり、生魚その他を細切りに盛ったものを言う。その状態が「す(巣)」に似ているということ。当初、その材料は魚介類が主でしょう、それが鹿その他、獣類もその材料になり、野菜もなり、酢その他による味付けもなされるようになる。後の「紅白なます」は大根と人参の細切りを酢その他で味付けしたもの。
「獵(かり)する毎(ごと)に大(おほ)きに獲(う)、…………『獵場(には)の樂(たのしび)、膳夫(かしはで)をして鮮(なます)を割(つく)らしむ。自(みづから)割(つく)らむに何與(いか)に』」(『日本書紀』)。
「…我が𡧢(しし)は み膾(御奈麻須)はやし 我が肝(きも)も み膾(御奈麻須)はやし…」(万3885:「𡧢」は「肉」の俗字。この部分、一般に「宍」の誤字とされますが、そうではないでしょう。これは鹿の身になっている歌。つまり、「なます」の材料は鹿肉)。
「是(ここ)に、膳臣(かしはでのおみ)の遠祖(とほつおや)名(な)は磐鹿六鴈(いはかむつかり)、蒲(かま)を以(も)て手繦(たすき)に爲(し)て、白蛤(うむき)を膾(なます)に爲(つく)りて進(たてまつ)る」(『日本書紀』:「うむき」は後で言うハマグリ(その項)。「かま(蒲)」は草名(その項))。
「鱠 …和名奈萬須 細切肉也」(『和名類聚鈔』)。
「膾 …ナマス」(『類聚名義抄』)、「𦢩 …アヘ物 ナマス アヘツクリ」(『類聚名義抄』:「𦢩(シュク)」は中国の書にその意味が「切肉合糅」と書かれる字)。
「母つねに江の水を飲みたく思ひ、又なまいを(生魚)の鱠(なます)をほしく思へり」(「御伽草子」『二十四孝』:これは後で言う刺身(さしみ)のようなものでしょう)。

◎「なまづ(鯰)」
「なめめやつる(舐め目や蔓)」。「る」の無音化。目でなにかを舐(な)めているのかと思うような蔓(つる)のあるもの、の意。口の上両側に特に目立つ二本の蔓(つる)状感覚器の印象による名。魚(淡水魚)の一種の名。「鯰」という字は、中国語でナマズを意味する「鮎(デン・ネン)」の音(オン)による和製漢字(「あゆ(鮎)」は中国語で「香魚」。日本で「あゆ」が「鮎」や「𬵂」(『類聚名義抄』にある(「細鱗魚」「銀口魚」といった表記もある))と書かれるのは、(魚の)鮎(あゆ)が(古代の、小さな)大根を思わせ、それにより魚偏に大根を意味する「蔔(ボ)」のつもりで同音の「卜」が書かれ「𬵂」となり、「卜」は占(うらな)いの意味があるので、「鮎」と書かれたのではなかろうか。神功皇后が占いのような鮎釣りをやったから、とも言われるわけですが、鮎に占いの魚という印象はない)。
「鯰 ………和名奈萬豆………貌以䱌而大頭者也」(『和名類聚鈔』)。
「かの弟子よびてうを(魚)などくはせたりければ ……… 又 秋をやくつる(鶴)やまかも(真鴨)とおもふまですふは(吸ふは)なますの汁にそありける」(「仮名草子」『仁勢物語』:この「なます」は「なまづ(鯰)」でしょう)。