◎「なほし(直し)」(動詞)
「なほ(直)」の動詞化であり「なほり(直り)」の他動表現。「なほり(直り)」の状態にすること。常態にすることです→「なほ(直・尚)」の項(2月4日)。常態たる状態にすることをいいますが、なにかをあるべき位置や元あった位置におさめたり戻したりすることも言う。後者の場合(たとえば、散らかったものを)「かたつける」や「かたす」にも意味は似る。
「次(つぎ)に其(そ)の枉(まが)れるを矯(なほ)さむとして生(う)める神を、號(なづ)けて神直日神(かむなほひのかみ)と曰(まを)す」(『日本書紀』)。
「経ノ文ヲタタサシムレハ、口ニ誦シテ多クナヲス」(『三宝絵』)。
「抑(さて)都近き所なれば、人目もつつましくて、女房どものはるかの末座に遮那王殿(後の源義経)をなほしける」(『義経記』:あるべき位置につけた、のような意味になる)。
「請取つた五十両はなをしておいて…」(『色深狭睡夢』:そのままにしておいて)。
「大方(水車は)めぐらざりければ、とかくなほしけれど…」(『徒然草』:順調に動くようにいろいろと工夫し修正した)。
「『違ひました成らば置(おき)直(なほ)いて御目に掛う』」(「狂言」『賽の目』:計算しなほす)。
「壊れた機械をなほす」。「病気をなほす」。「失敗し、やりなほす」。

◎「なほし(直し)」(形ク)
「なほよし(直よし)」。「なほ(直・尚)」はその項。常態としての確かな肯定表明。人の常態やものやことの状態として全的に受容し得ることを表現する。
「明(アカ)キ浄(キヨ)キ直(ナホ)キ誠ノ心モチテ…」(『続日本紀』)。
「えせ者の家の荒畠といふものの、土うるはしうも直(なほ)からぬ…」(『枕草子』:畠として整った印象ではない、ということでしょう)。
「なほき(直き)木にまかれる(曲がれる)枝もあるものをけをふききすをいふか(が)わりなさ」(『御撰和歌集』:「けをふききすを」は「毛を吹き疵を」であり、毛を吹いて見えない(隠れている)疵を探し出して言い立てる、ということか)。
「わが身にては、まだいとあれがほどにはあらず。目も鼻も直し、とおぼゆるは、心のなしにやあらむ、とうしろめたくて…」(『源氏物語』:我が身をふりかえると、まだあの人たち(歳の盛りを過ぎた女房たち)ほどではない、目鼻立ちも若いころのままだ、と思うのは自分の、そう思いたい心がそう思わせているのでは…、と気持ちが臆してしまい…)。