◎「なべ(鍋)」
「なびへ(菜・肴火器)」。「な(菜・肴)」という語は料理の素材を意味する(2024年12月9日)。植物系のそれも動物系のそれも言う。「へ(器)」はさまざまな用途に用いるさまざまな形体・大きさの器(うつは)です(その項)。古くは粘土を成形し、焼き、固化したもの。「なびへ(菜・肴火器)→なべ」は、「な(菜・肴)」を火にかける(加熱する)器、の意。食材はさまざまですが、加熱のしかたは、食材を中に入れただ加熱する蒸し焼きもあったかもしれませんが、ここに水と食材を入れ、加熱する、つまり煮る、ことが一般的だったでしょう。つまり、「なべ」は、料理の材料を煮る調理道具、ということ。
「さし鍋(なへ:名倍)に湯沸かせ子ども櫟津(いちひつ)の桧橋(ひばし)より来む狐(きつ)に浴(あ)むさむ」(万3824:「さし鍋(なへ)」は注(さ)し口のついた鍋であり、後世の薬缶(ヤカン)の役割をするもの。この歌は、さまざまな物を織り込んで歌を作れ、と言われ作った宴席での戯歌であり、歌全体の歌意は意味がない)。
「(房に)入りて見れば、鯉の骨・鱗(いろこ)と見るは(鯉の骨、鱗を食い散らしていたと見えたのは)、蓮花のしぼみたる、あざやかなるを、鍋(ナヘニ)入れて、煮喰ひ散らしたり」(『打聞集』)。
◎「なべ(靡べ)」(動詞)
「なみへ(並み経)」。「なみ(並み)」はその項参照。複数の全体を整理(秩序均質化)し、の意。「なべて」は、全体を均質化し把握し、のような意になる。
「かが(日日)なべて(那倍弖)夜(よ)には九夜(ここのよ)日(ひ)には十日(とをか)を」(『古事記』歌謡27)。
「…薄(すすき)押しなべ(於之奈倍)降る雪に…」(万4016)。
◎「なへぎ(蹇ぎ)」(動詞)
「にあへぎ(荷喘ぎ)」。「足(あし)荷喘(にあへ)ぐ」(重い荷を負い足が喘(あへ)ぐような状態になる)と表現されつつ、「なへぎ(蹇ぎ)」が動詞化した。歩行が、まったく不能というわけではないが、たよりない困難なものになること。
この語、動詞「なえ(萎え)」と関連づけて語られますが、動詞「なえ(萎え)」に活用語尾「ぎ」がつくことはないでしょう。
「老テ力少シ足ナヘキテ歩難(あゆみがた)シ」(『三方絵詞』)。
「蹇 ……訓阿之奈閉 此間云那閉久 行正也」(『和名類聚鈔』) 。
「蹇 …アシナヘ…ナヘグ」(『類聚名義抄』)。