◎「なにが(何が)」
「なにが(何が)」。「なに(何)」にかんしてはその項(1月25日)。
・「なにが」(1):「なに」が、ないがある、を意味し、「が」が所属を表現した場合、たとえば「なにがA」は、ないがあるに属すA、ないがあるA、という意味になり、稀(まれ)なA、という意味になる。
「『さう有らば(もし取り立てたら)、何(なに)が遣(つか)ひ付(つけ)ぬ人を遣(つか)ふ事で御座るに依(よつ)て、嘸(さ)ぞ叱りませう(さぞかしその人を叱るでしょう)』」(「狂言」『止動方角(しどうはうがく)』:稀な遣(つか)ひ付(つけ)ぬ人、とは、遣いなれていない人。ないと思うような、ある、まさにそれの人)。
「或年六月、ぎをん会(ゑ)にはじめて呼(よび)ければ、何(なに)が田舎ものの事なれば」(「咄本」『軽口露がはなし』:ないと思うような、ある、まさに田舎者)。
「『…いつやらも信濃へ行やした。ナニガあつちは飯(めし)どころでござりやすから…ちやうけ(茶請け)にとて座頭の天窓(あたま)程あるにぎりめしを出しやすが…』」(『東海道中膝栗毛』)。
・「なにが」(2):「なに」が、(意味や価値の)不明を意味し、「が」が主格を表現し、疑問や否定が言われている場合、たとえば「なにがA」は、そんなものやことがAか?、そんなものやことはAではない、という疑問や否定を強く表現する表現になる(Aが動態なら、Aなどするか?Aなどしない)。
「ナニガ庭デ拝シマラセイテハ(まいらせずでは)ト云テヲカマレタソ(拝まれたぞ)」(『玉塵抄』:拝さずに私はすむか?すみはしない。なんとしても拝さねば)。
「『何が惜しかろ。これこれ。この上下(かみしも)小袖は着古したれども、これもそちにやるぞ』」(『狂言記』「秀句大名」)。
「なにが正義だ。こんなに多くの人々を犠牲にして」。
上記「なにが」(1)の意味で「なにが田舎者」と言った場合上記のように、珍しいようなまさに田舎者、といった意味になりますが、この「なにが」(2)の意味で「なにが田舎者」と言った場合、田舎者でもなんでもない、という意味になる。
・「なにが」(3):「なに」が不明のものやことであり、「が」が主格を表現するだけである場合。動態の主体や目的が不明であることを表現する。
「お誕生日のプレゼントはなにがいい?」。
「なにが出るかな」。

◎「なにそ(何そ)」
「なにそ(何そ)」。「なに(何)」にかんしてはその項。「そ」はS音の動感により何かを指し示し、それゆえに強調にもなり、「なに」が不明を意味し「そ」がそれを指し示しそれがものやことを指し示す場合、なにものかやなにごとかが不明であることを表現し→「草の上におきたりける露を『かれは何そ』となむ男に問ひける」(『伊勢物語』:「なにその(もの・こと)」ということ)。それが動態状態を指し示す場合、なぜそうなるのか不明であることを表現する→「多摩川にさらす手作りさらさらになにそ(奈仁曽)この子のここだ愛(かな)しき」(万3373:「なにそに(愛しい)」ということ)。