◎「ななめ(斜め)」
「なのはめ(名・字)の「ハ」目)」。ここでの「な(名・字)」は文字を意味する。「かな(仮名)」「まな(真名)」の「な」。語尾の「め(目)」は見た目であり、視覚印象。「なのはめ(名・字)の「ハ」目)→ななめ」は、字の「ハ」の見た目印象(たるもの、こと)、ということ。「ハ」の印象のもの・こと、とは。印象が「/ \」のようであること。すなわち「/」や「\」のようであること。それは印象が水平でも垂直でもなく、そこから傾き、ずれている。
「ななめによろこび」といった表現がある。これは、「ハ」と笑う、といったことの影響もあるのかもしれませんが(「座席の人ども、「は」と笑ひける時」(『沙石集』)、水平や垂直の正位置が崩れ、という情動変化が起こったことが表現されるのでしょう。これが「常識外」という意味にもなり、機嫌の正位置状態が崩れれば「ご機嫌ななめ」。
この語は一般に「なのめ」の変化と言われますが、意味がことなる(「なのめ」の項参照)。ただし、音(オン)は似ており、「なのめ」がなだらかな凹凸を意味することもあり、両語は混同しやすく、「なのめならず」(「なのめ」の項)が「ななめならず」と言われるようなことは起こる。逆に、常態外である上記の「ななめに」が「なのめに」と言われることも起こる(「あるじなのめによろこびて、又なきものとおもひける」(「御伽草子」『文正草子』)。
「橋のごとくに側(そばだち)、虹のごとくに斜(ナナメナリ)」(『三蔵法師伝』(承徳三(1099)年点))。
「斜 …カタブク…ナナメナリ」(『類聚名義抄』:その他、『類聚名義抄』で「ナナメナリ」と読まれる字に「角」や「影」などがある。「影」がそう読まれるのは太陽が南中から傾むいていき(消滅へ向かい)、傾くほどそれが伸びていくことが印象的だから(日の出後は、傾いていくのではなく、垂直へむかっていく))。
「二人の童、寝殿の前を経て、階(はし)の子をななめにおり下りて…」(『古今著聞集』)。
「西行ななめによろこびて、いそぎたちより、しさいをとひつれば」(『薄雪物語』)。
◎「ななり」
「なるねあり(~なる音あり)」。これが、~なんなり、のような音により、~ななり、になっている。この「ね(音)」はものごとから伝わる響きであり、印象。「なるねあり(~なる音あり)→ななり」は、~である響きがある→~の印象がある→~のように思われる、ということ。たとえば「さればこそ、天狗ななり」(『宇津保物語』)は、「天狗」という響きがあるわけではない。天狗だというわけではない。「天狗」そのものではないが「天狗」の響き、その印象がある。それが、「天狗のように思われる」という意味になる。ただし、この『宇津保物語』の例では、これ以前に、天狗だろう、という推測が言われており、人の話を聞き、さらにその推測が確信の方向へ強まっていることが表現されている。つまり、単純に、~のように思われる、というものではなく、たしかに~のようだ、のような表現。
「『すべて、にぎははしきによるべきななり』とて、笑ひたまふを…」(『源氏物語』:繁栄しもてはやされていることによるべきと言っているようだ)。