◎「なな(3)」
「ぬはふにや(~ぬ這ふにや)」・「なふにや(無ふにや)」。「なふ」は否定の「ぬ」による「ぬはふ(ぬ這ふ)」ですが、「なふ(無ふ)」が助動詞の状態になっている→「なふ(無ふ・助動)」の項。「に」は助詞。「や」は疑惑を表現する。~しない状態でか?、の意。
「…まこと汝(なれ) 我が手触れなな(奈奈)地(つち)に落ちもかも」(万4418:あなたは私が手を触れることなく地に落ちてしまうのか(いやそんなことはない)。
「わが夫(せな)を筑紫(つくし)へやりて愛(うつく)しみ帯(おび)は解かなな(奈奈)あやにかも寝も」(万4422:「あやに」は自分の心情が自分では処理できないような状態になること。帯を解かない情況でか? 私がぐっすりと眠るのは(早く帰って来てほしい。私は帯を解いてゆっくりと眠りたい)。これは防人に行っている夫のもとへ妻が送った歌)。
これらは『万葉集』の東国の歌にある表現です。

◎「なな(4)」
「なふねや(なふ音や)」。「なふ」は古代東国の方言的表現→「なふ(無ふ・助)」の項。これは『万葉集』の東国の歌(下記)にある表現ですが四句以下は「ねなななりにしおくをかぬかぬ」(万3487)。これは「寝(ね)なふ音(ね)や鳴(な)りにし 奥(おく)を予(か)ね浮(う)かぬ」でしょう。言っていることは「(寝ない音が鳴り(あなたに、あなた(つまり歌の主体たる自分)とは付き合いたくなくなったという思いが感じられ))、奥を予ね浮かぬ(いろいろと心配で気持ちが浮かない)」、ということ。東国の歌には「おくもかなしも(奥も悲しも)」(万3403)「おくをなかねそ(奥をな予ねそ)」(万3410)のように、深い心情を「おく(奥)」と表現するものがある。「おくをかね(奥を予ね)」とはいろいろと深く思うこと。
「安豆左由美 須恵尓多麻末吉 可久須酒曽 宿莫奈那里尓思 於久乎可奴加奴(あづさゆみ すゑにたままき かくすすぞ ねなななりにし おくをかぬかぬ:梓弓 末に玉撒き 隠し失すぞ(綺麗な玉を撒き隠されているが) 寝なふ音や鳴りにし 奥を予ね浮かぬ)」(万3487:内容的に、これは男の歌でしょう)。