◎「なな(1)」
「ぬははな(~ぬ這はな)」。「ぬ」はいわゆる完了の助動詞。「ははな(這はな)」は、動詞「はひ(這ひ)」に何かを勧める「な」がついている(動詞の未然形につく)ものであり、「這ひなさいな」「這って欲しい」の意。「はひ(這ひ)」は何かが感じられること、何かの発生感があること。すなわち、「ぬははな(~ぬ這はな)→なな」、「「~ぬ」が這(は)って欲しい」、とは、そう感じられる状態であって欲しい、そうあって欲しい、ということ。
「秋の田の穂向きの寄れること寄りに君に寄りなな(奈名)言痛(こちた)かりとも」(万114)。「ことより」は「異寄り」(異なった寄り)。世間の人がどう言おうと、世間の人々の噂がどんなに激しかろうと、世の中とは異なった寄りにあなたに寄って欲しい。世の中の人々の言葉で自信が揺らいだりすることなくしっかりと自分を維持して欲しい。―そんなことを言っている歌です。この歌は「あなたに寄りたい」と言っているわけではない。同じく『万葉集』には東国の歌に「吾(われ)さへに君に付きなな(奈那)高嶺(たかね)と思(も)ひて」(万3514:私のように自分に付いて、自信をもって)という表現もある。

◎「なな(2)」
「ぬははな(~ぬ這はな)」。「ぬ」はいわゆる否定の助動詞。「ははな(這はな)」は「はひ(這ひ)」に何かをすすめる助詞「な」がついている。「ぬははな(~ぬ這はな)→なな」は、「~しないであって欲しい」ということ。
「末枯(うらが)れせなな(奈那)常葉(とこは)にもがも」(万3436:末枯(うらが)れしないでほしい。常葉(とこは)であってほしい)。『万葉集』の東国の歌にある表現。
この否定の「ぬ」を「はひ(這ひ)」で表現した「~ぬはひ(~ぬ這ひ)」は「ぬはひ→なひ」となり古代の東国方言で独立した助動詞の状態になっている(→「なふ(助動)」の項)。ただしこれは連用形「なひ」は現れない。

◎「なな(七)」
数詞のひとつですが、数詞の一から十まではまとめて「ひと(一)」の項で扱われる。