◎「なで(撫で)」(動詞)
「なむとてへ(嘗むと手経)」。「と」は助詞にあるそれですが「おとな (大人)」の項参照。嘗(な)める動態たる手を経過する、という表現です。手が何かをなめるように動く。
「我が母の袖もち撫でて(奈弖氐)我がからに泣きし心を忘らえぬかも」(万4356:防人の歌)。
「父母が頭(かしら)かきなで(奈弖)幸(さ)くあれて言ひし言葉(けとば)ぜ忘れかねつる」(万4346:これは古代東国の防人の歌であり、発音が多少変動している)。
「山吹は撫でつつ(奈埿都都)生(お)ほさむありつつも君来ましつつかざしたりけり」(万4302)。
「撫 …ナツ ………カイナツ」「育 ……ヤシナフ…ハククム…ナツ」(『類聚名義抄』)。
◎「なで(和で)」(動詞)
「なむとへ(並むと経)」。「と」は「おとな(大人)」や「おと(音)」の項参照。「なめ(並め)」はその項参照。均質化させることを経過すること。全体を、自己に対しても、心的に均質化させ穏やかなものにする。
「…もののふの八十伴男(やそとものを)をなでたまひ(撫賜)ととのへ給ひ」(万4254)。
「梳 ケツル ナツ」(『類聚名義抄』)。