◎「なづな(薺)」
「なつねな(夏音菜)」。この植物の、成熟した、小さな三角の実がまばらになった房状の部分を耳元で降ると微かな音(ね)が聞こえる。これが「なつね(夏音)」(夏を思わせる、夏らしい、音(ね)。それが聞こえる「な(菜)」の意。植物の一種の名。別名「ぺんぺんぐさ(ぺんぺん草)」。この名は、子供がこの植物の小さな葉を三味線の撥(ばち)に見立て「ペンペン、ペンペン」と弾(ひ)く真似をしたことによる。これは江戸時代に江戸周辺の子供がそうしたことをしたのでしょう。
「にはのおもに なつなのはなの ちりほへは はるまてきえぬ ゆきかとそみる」(『好忠集(曾丹集)』)。
◎「なづのき」
「なでゐのき(撫で居の木)」。撫でられるように柔らかく靡(なび)く木。『古事記』歌謡75にある表現。「…なづのきのさやさや(那豆能紀能佐夜佐夜)」(『古事記』歌謡75)。
◎「なづみ(泥み)」(動詞)
「なでつつふみ(撫でつつ践み)」。「つつ」は動態の同動・連動を表現する(→「つつ(助)」の項・「朝漕(こ)ぎしつつ歌ふ船人」(万4150:動態の並行))。「ふみ(踏み・践み)」は実践すること。「なでつつふみ(撫でつつ践み)→なづみ」、撫(な)でながら実践する、とはどういうことかというと、手探りするように、環境を撫でつつ動態が進行する。何らかの理由により、ためらわれたり、難渋したりしつつ、進行する。抵抗なく進行していかない。なにかがからまるような抵抗がありつつ進行する。「Aになづみ」と、なにか(A)にからまれ(心が奪われ)解放された自由な動きがなくなってしまっているような状態になっていることも表現する。
「降る雪を腰になづみて(奈都美弖)参り来ししるしもあるか年の初めに」(万4230)。
「きときては(来と来ては) かはのぼりぢの みづをあさみ ふねもわがみも なづむけふかな」(『土佐日記』)。
「大夫(ますらを)の心はなくて秋萩の恋のみにやもなづみて(奈積而)ありなむ」(万2122)。
「まことに、この君、なづみて、泣きむつかり、(夜を)あかしたまひつ」(『源氏物語』:「この君」は赤ん坊)。
「なづむ おもひ入て執着する心なり。心外にあらずして一すぢにかたむく皃(かたち)也」(「評判記」『色道大鏡)』:これは心を奪われている)。