◎「なつ(夏)」
「なとひ(名と日)」。「とひ」のO音とI音の連音がU音「つ」になっている。「と」は思念的になにかを確認するそれ(「おとな(大人)」や「おと(音)」の項)。名(な)とある日(ひ)のとき、その名に相応(ふさは)しい日(ひ)のとき、ということなのですが、太陽を意味する「ひ(日)」に相応(ふさは)しい一日たる時間経過を意味する日(ひ)のとき。ということ。太陽たる日(ひ)が経過する日々(ひび)のとき。年(とし)の一巡(ひとめぐ)りのなかで最も太陽の光や熱の影響を強く受ける季節たる時期、日(ひ:太陽)の盛りの季節、を言う。
「…高き立山(たちやま) 冬夏(布由奈都)と 別(わ)くこともなく 白栲(しろたへ)に 雪は降り置きて …」(万4003)。
「夏山の木末(こぬれ)の繁(しげ)に霍公鳥(ほととぎす)鳴き響(とよ)むなる聲(こゑ)の遥(はる)けさ」(万1494)。

◎「なつき(懐き)」(動詞)
「なつき(汝付き)」。「な」は人称代名詞・二人称。とくに敬意をはらうようなものではなく、遠慮のない、親しい間柄での言い方。「つき(付き)」は、思念的になにかが確認される状態になることですが、この場合は、「癖(くせ)がつく」などにあるそれ。「なつき(汝付き)」、すなわち、「な(汝)」が「つく」、とはどういうことかというと、たとえば、「猫がAになつき」の場合、猫が、Aに、癖(くせ)がつくように、「な(汝)」がつく。猫が、Aとの関係において、Aを「な(汝)・あなた」と呼んでつきあうような状態になる。他の誰かとはそのように親しく付き合ってはいなくとも、Aとは、Aを特別に「な(汝)」と呼んで親しくつきあう関係になる。そうした状態になることが「なつき(懐き)」。意図的にそうしようとすることもあり、他動表現は「なつけ(懐け)」。
猫がAに「なつく」親しい状態になりそれが恒常化すれば、Aも猫に「なつき」、親しくなり、それは生体に限らず、あらゆる環境対象、そして、ある環境、にAが「なつく」親しい状態になったりもする。
「なつきにし(名付西)奈良の都の荒れゆけば出で立つごとに嘆きし益(まさ)る」(万1049)。
「懐 …ココロ…オモフ…ナツク」「馴 …ナル…ナツク」(『類聚名義抄』) 。
「猫は、まだよく人にもなつかぬにや、綱いと長く付きたりけるを…」(『源氏物語』)。
「その女、壮(をとこ)に媚(こ)び馴(なつ)く」(『日本霊異記』)。
◎「なつけ(懐け)」(動詞)
「なつき(懐き)」(その項)の他動表現。懐(なつ)く状態にすること。自分の手(手段)となるよう懐(なつ)く状態にすることは「てなづけ(手懐け):てになつけ(手に懐け)」。
「春の野に鳴くや鴬なつけむ(奈都氣牟)と我が家(へ)の園(その)に梅が花咲」(万837)。