◎「なた(鉈)」
「なておや(菜手親)」。「なて(菜手)」は菜(な:料理材料)用、ということ。これは刃物の名であり、菜用の刃物とは、厨房で用いる調理道具たるそれ、すなわち庖丁(ハウチャウ:原意は、調理する人。それがその人たちがもちいる刃物の名になった)です。その包丁の親とは、それに似てはいるが、それよりも大きく、刃も厚く、全体も重い。そんな刃物が「なておや(菜手親)→なた」。これを振り細めの木の枝を断ち切ったりする。これで断ち切ることが困難な太い木であれば斧や鋸が用いられる。「庖丁」を「なた」と表現する方言がある(茨城県北相馬郡)。
「奈太四柄」(『皇太神宮儀式帳』)。
「鈑 ナタ」「釿 ナタ」(どちらも『類聚名義抄』)。
◎「なだ(灘)」
「なでいは(撫で岩)」。船底が海底の岩を撫でる印象の海域。座礁の危険があり水流も複雑な海の難所を言う。
「昨日こそ船出はせしかいさなとり比治奇(ひぢき)の灘(なだ:奈太)を今日見つるかも」(万3893:「いさなとり」はここでは「なだ(灘)」にかかる枕詞(「いさなとり」の項)。「比治奇(ひぢき)」は、地名であれば、所在不明ということなのですが、これは「ひちくり(漬ち繰り)」(濡れて引き寄せるもの)であり、海藻の「ひじき(鹿尾菜)」かもしれない。岩がヒジキ(鹿尾菜)に覆われているわけです。この「ひぢき」に「ひヂキ(日直)」がかかる。「ヂキ」は「直」の呉音。日の移り変わりがすぐ、ということ。「ヂキ(直)」という語にかんしては『日本書紀』天武天皇十四年正月に「直位(ヂキヰ)」という位名がある。
海藻の「ひじき(鹿尾菜)」は「ひつしき(干つ敷き)」でしょう。「つ」は、行きつ戻りつ、などのそれ。引き潮につれ現れ海に敷くもの、の意。海藻「ひじき(鹿尾菜)」の古名に「鹿尾菜 ……比須木毛(ひずきも)」(『和名類聚鈔』)「鹿尾菜 比須支(ひずき)」(『新撰字鏡』)がある。「ひつしき」は「ひじき」にも「ひずき」にもどちらにもなりそうです。