◎「なぜ(何故)」
「なにそゆゑ(何そ故)」。「そ」は指し示し。その指し示しにより「なに(何)」が強調強意され、「なにゆゑ(何故)」より強い疑問表明になる。「なに(何)」や「ゆゑ(故)」はそれぞれの項。言っていることの原意を言えば、根拠無く、ということです。この表現が根拠・原因にかんする疑問の表明になる。なぜそのような原意になるのかにかんしては「なに(何)」や「ゆゑ(故)」の項。助詞「に」がついて「なぜに」とも言う。
「いし(石)火矢をうつ時はしろ(城)の近所を触廻(ふれまは)りておじやつた。それはなぜなりや。石火矢をうてば…」(『おあむ物語』)。
「『人はあたじけないといふが、金持ほど大気なものはねへ。なぜと云つて見なせへ。辛抱してためた金を、(死んで)他人に唯遣(ただや)るのだから、是(これ)ほど大気な事はあるめへ』」(『浮世床』:「あたじけない」は、それ以上ないほどしけている、の意)。
「江戸にて、なぜ、といふ 京にて、なせに、と清(すみ)ていふ」(『物類称呼』)。
    
◎「なぞ(何ぞ)」
「なにそ(何そ)」の変化。「なに(何)」と「なにそ(何そ)」にかんしてはその項。この語は「なぞ(謎)」という語になりますが、なにそのこと・もの、ということ。
「秋の夜を長みにかあらむなぞ(奈曽)ここば寐(い)の寝らえぬもひとり寝(ぬ)ればか」(万3684:なぞに、ということ)。
「君なくはなぞ身装(よそ)はむ櫛笥(くしげ)なる黄楊(つげ)の小櫛(をぐし)も取らむとも思(も)はず」(万1777:なぞに、ということ)。
「『あな、うたてや。こはなぞ』と引き入るれど、」(『源氏物語』:これも、なぞに、でしょう。なにかことが起こるのではないかと危惧し、ということ)。
「人しれぬ思ひやなそとあしかきのまちかけれともあふよしのなき」(『古今和歌集』:これは、なぞの)。