◎「なごみ(和み)」(動詞)
ク活用形容詞「なごし(和し)」の語幹の動詞化。「なごし(和し)」はその項。「なごみ(和み)」は、全体的に平均化・平準化することの影響力が増大・増強していること。深く、広く平均化・平準化し穏やかになっている。
「(雲居雁は)いと若やかに心うつくしう、らうたき心はたおはする人なれば、(雲居雁は、言われたことを)なほざりごととは見たまひながら、おのづからなごみつつものしたまふを…」(『源氏物語』:「らうたき心」は、無邪気でおさなげな、といったような意。「はた」は、なぜ?、や、それでいいのか? などと思いつつなにかに感づくこと)。
「いにしへの さはへ(五月蠅)なしたる かみたにも(神だにも) けふのみそき(禊)に なこむとそきく」(『堀河百首』)。
◎「なごめ(和め)」(動詞)
「なごみ(和み)」(その項)の他動表現。「なごみ(和み)」の状態にすること。全体的に平均化・平準化することの影響力を増大・増強させること。深く、広く平均化・平準化させ穏やかにさせる。
「『ないれそ(な入れそ)』との給へは。さてはらたて(腹立て)なん。猶なこめさせおはしませ」(『落窪物語』)。
「皆これ天地(あめつち)を動かし、荒ぶる神をなごめ、国をおさめ民をめぐむ歌伝とす」(『梁塵秘抄口伝集』)。
「NAGOME(ナゴメ),―RU(ル) ナゴメル 和 t.v. To propitiate(なだめること), appease(なだめる) : kami(カミ) wo(を) ― to propitinte the kami(神をなだめる). Syn. NADAMERU(ナダメル)」(『改正増補 和英英和語林集成』)。
◎「なごし(和し)」(形ク)
「なぎおほし(和ぎ大し)」。「なぎ(和ぎ)」は、全体的に平均化・平準化すること(その項)。「おほ(大・多)」(その項)は、この場合は、「多」ではなく、「大」であり、対象の数が多(おほ)いわけではなく、事象の規模、影響力が増大・増強していること。全体的に平均化・平準化することの影響力が増大・増強している、とは、非常に「なぎ(和ぎ)」だということ。そうした感銘を表現するのが「なぎおほし(和ぎ大し)→なごし」。
「この頃空の氣色なほり立ちて、うらうらとのどかなり。暖かにもあらず、寒むくもあらぬ風、梅にたぐひて、鶯をさそふは、鳥の聲などさまざまなごう(なごく)聞えたり」(『蜻蛉日記』)。
「…思ひ行くに、風いたう吹き、海の面(おもて)ただあしにあしうなるに、ものもおぼえず、とまるべき所に漕ぎ着くるほどに、船に波のかけたるさまなど、かた時にさばかりなごかりつる海とも見えずかし」(『枕草子』:ほんのひとときの間に、あんなになごかった海とは思えない状態になる)。
「高麗(こま)の紙の、肌こまかに、なごうなつかしきが、色などははなやかならず、なまめきたるに…」(『源氏物語』)。