◎「なぐれ」(動詞)
「なぎふれ(薙ぎ振れ)」。「なぎ(薙ぎ)」はその項。刀で薙(な)ぐ場合、なにかを平準化するように、横様に振ることですが、ここでの「なぎ(薙ぎ)」は、なにかが、そうしたように横様へ動く。「ふれ(振れ)」は、四段活用・他動表現の受け身なら「彼女にふられ」。下二段活用・自動表現なら「気が狂(ふれ)」のそれのような、遊離・離脱を表現する自動表現の「ふれ(振れ)」(→「ふり(生り・振り)」の項)。つまり、「なぎふれ(薙ぎ振れ)→なぐれ」は、横様に水平移動するように遊離しずれる。たとえば、まっすぐ走っていた鹿が突然横へ飛べば「鹿なぐる」(「なぐる」は「なぐれ」の終止形)。この語が、何かが流れからそれる、ある目的へ向かっていた流れから他の目的へ向かう流れがあらわれる、経済的流れからそれる→売れ残る、世の中の流れからそれてしまったような状態になる、など、さまざまなもちいかたがなされる。基本的な意味は横へそれることですが、それが、本来の流れからはずれてしまう、という意味にもなる。
「馬にとらはかたのかみはつれよりくらしたへよりて四五寸間あてかひて矢をはなたはししなくるともはつれましき也 (馬にとらば、肩の上外れより鞍下へよりて四五寸間(マ?)あてがひて矢を放たば鹿(しし)なぐるとも外れまじき也)」(『就弓馬儀大概聞書(きゅうばのぎにつきたいがいききがき)』(国文学研究資料館蔵のもの))。
「『ナニ、梅舟さんが交(まぜ)るから、ツイ咄(はな)しがなぐれてなりやせん』」(『春色梅美婦禰(―うめみふね)』)。
「御悋気(リンキ)のなぐれに下女は度ゝ困り」(「雑俳」『柳多留』:悋気(リンキ:やきもち。ねたみ)が横へ飛び、とばっちりを受ける)。
「塩ものに酔ても膝のなぐれけり」(「俳諧」『若葉合』:膝が不安定になる)。
◎「なけ(泣け)」(動詞)
「なき(泣き)」(その項)の他動表現。泣く状態にすること。自動表現の「なけ(泣け)」もある。「その話を聞いて泣けて泣けて」(「なけ(泣け)」は、活用語尾E音で可能が表現されるようになった後は可能表現にもなる)。
「吾(あ)をねしなくる」(万3471:私を泣かせる。「ねし」は「ねしひ(音強ひ)」(声を出させ):他動表現の「なけ(泣け)」はこの慣用表現が中心)。