◎「なぐさ(慰)」
「なぎくさ(和ぎ種)」。「なぎ(和ぎ)」「くさ(種)」(2021年9月24日)はそれぞれの項参照。心情が和(な)ぎ、おだやかになる材料たるもの・こと。それを求めるということは心情は穏やかではない。
「浅茅原(あさぢはら)小野に標(しめ)結ふ空言(むなこと)も逢はむと聞こせ恋のなぐさに(名種尓)」(万3063:「浅茅(あさぢ)」という語も問題になる(その項))。
「我れのみぞ君には恋ふる我が背子が恋ふといふことは言(こと)のなぐさぞ(名具左曽)」(万656:ただ言っているだけの気やすめだ、ということ)。

◎「なぐさみ(慰み)」(動詞)
「なぐさ(慰)」の自主動態的動詞化。「なぐさ(慰)」(和(な)ぎ種(くさ):和(な)ぎこと)の努力をする、ということであり、また、それがある状態になること。
「安(いづくに)ぞ空爾(むな)しとして答(こた)へ慰(なぐさむ)こと無(な)けむ」(『日本書紀』:これは、『日本書紀』の継体八年春正月(むつき)にあるものであり、相手(女)の涙に応え(それをもっともなことだ、と思い)、自分の思いが和(な)ぐこと、気持ちが安らぐことをする(具体的には、屯倉(みやけ)を与える)、ということなのですが、「なぐさむる」という読みもある。これは「なぐさめ」の連体形であり、相手の女をなぐさめる、相手の女の思いを和(な)ぎの状態にする、という意味にもなる(自動表現「なぐさめ」の連体形にもなる)。他動表現で読んだ場合、屯倉(みやけ)が子の代わりになったり、屯倉(みやけ)が欲しくて泣いていたりしている印象になりそうである)。
「隠(こも)りのみをればいぶせみなぐさむと出て立ち聞けば来鳴くひぐらし」(万1479)。
「『今日は天気も良(よし)。ひとしほ能(よい)御慰で御ざる』『ゆるりとなぐさうで帰らう』」(「狂言」『真奪(しんばひ)』)。
「『たんと買うつらをしてなぐさんでやろう』」(『東海道中膝栗毛』:これは、他動表現のような印象も受けるが、相手を、なぐさむ、のではなく、自分がなぐさむ。からかっって気晴らししてやろう、のような意)。
「『おまへ此年寄をなぐさんで、今逃げる事はござらぬ』」(『東海道中膝栗毛』:これも他動表現のように読めるが、「を」は状態を表現し、自分がなぐさんだ。「なぐさみものにする」の「なぐさみ」)。