◎「どろ(泥)」
濁音化により物的持続感・粘性をもった流動性のあるものを表現する「とろ」が濁音化した擬態。水に溶けた土、たとえば水中で沈殿した土、を言いますが、後世では「どろ(泥)」も「つち(土)」も同じような意味で言われている。「つち(土)」にかんしてはその項(5月18日)。
「南のつらのいと惡しき泥をば蹈みこみて候ひつれば」(『大鏡』)。
◎「どろく」
「ドロク(怒禄)」。「怒(ド)」は、怒(いか)り、や、憤(いきどほ)り、ということですが、「禄(ロク)」は、さいはひ(幸)、であり、褒美(ホウビ)や給与のようなもの。たとえばAのBに対する奉公があった場合、それへの対価のようにしてBからAへ「禄(ロク)」があり、Aは「禄(ロク)」を得る。「ドロク(怒禄)」は、AのBに対する奉公があった場合、Bが怒るわけではなく、Aに「怒(ド)」が起こり、Aが「怒(ド)」を受ける(Aに「怒(ド)」が発生する)。奉公をしてもそんな「禄(ロク):褒美」しか受けない。つまり、「どろくもの(どろく者)」は、どんなに奉仕してやっても、なにをやってやっても、怒りや憤りが起こる、なにをしてやってもだめなやつ(B)、ということ。
この「どろくもの(どろく者))」という語は「ダウラク者(道楽者)」の変化と考えることが一般になっている。
「神仏の罰(ばち)も思はぬどろく者」(「浄瑠璃」『女殺油地獄』)。