◎「とほし(遠し)」(形ク)
「とおほし(と多し)」。思念的な「と」という確認が非常に多く存在感を感じさせる情況にあることの表明。空間的に長距離であることを表現することが一般的ですが、社会的時間的な遠隔感も表現する。語幹が繰り返されたシク活用形容詞「とほどほし(遠遠し)」もある。
「山川を中に隔(へな)りて遠くとも(等保久登母)心を近く思ほせ吾妹(わぎも)」(万3764)。
「…遠(とほ)き代に ありけることを 昨日しも 見けむがごとも 思ほゆるかも」(万1807)。
「明日香川(あすかがは)明日も渡らむ 石走 遠き心は思ほえぬかも」(万2701:「石走」は「いはばしり」。これにかしては「いはばしり(石走)」の項。この語は一般に「いしはしの(石橋の)」や「いしはしる(石走る)」と読まれている)。
「近うて遠きもの ………鞍馬のつづらをりといふ道。十二月のつごもりの日、正月のついたちの日のほど」(『枕草子』)。
「耳が遠い」(遠くで音が発せられているかのように良く聞こえない)。
「縁(エン)遠(どほ)い」(縁(エン)は環境において結果を引き起こす因であるが、それとの関係に遠隔感がある)。