◎「とみ(富み)」(動詞)
「つよみ(強み)」。「み」は「かろみ(軽み)」などの語尾に同じ。つまり、「つよみ(強み)→とみ」は「つよ(強)」の動詞化であり、「つよ(強)」になること。「つよ(強)」は存在影響が昂進すること(→「つよし(強し)」の項)。「とみ(富み)」は存在影響が昂進した状態になること。「学識に富(と)む」というような表現もありますが、財産・資産関係で言われることが非常に多い。財産で言われるのはそれが社会的な存在感として最も平凡・一般的だからでしょう。
「富 …トム……サイハヒス」(『類聚名義抄』)。
「おのづからやむごとなき人の御けはひのありげなるやう、直人(ただひと:普通の人)の限りなき富といふめる勢ひには、まさりたまへり」(『源氏物語』)。
「もし貧しくして富める家の隣にをるものは…」(『方丈記』)。
「法師學富(トミ)詞(ことば)清(きよ)くして 志堅操远(遠)」(『三蔵法師伝』:平安後期点)。
◎「とみに」
「トンに(頓に)」。「とんに」が「とにに」と表記され、「に」と「み」が交替した。「にら(韮)・みら(韮)」、「にな(蜷)・みな(蜷)」のように、「に」と「み」の交替はある。「頓(トン)」は、「頁(ケツ)」は頭を意味し、文字全体は頭を下げていることを意味することが基本ですが、これが、事態に対応してすぐ、を意味するのは褪(タイ(慣用音。呉音・漢音、トン):脱ぐ)と同音だからということか。すなわち、事態から即応的に脱する、ということ。「とみに」は、事態に対応してすぐ、の意(「頓智(トンチ)」「頓悟(トンゴ)」。「頓(トン)」は、意味発展的に、急速になにごとかが起こることも意味する→「頓死(トンシ):急死」)。「トンに(頓に)」という語もあるのですが、「とみに」が事態に対応してすぐ、「とんに」が、急速に、突然、という使い分けがなされているようです。また、21世紀には、「とみに」は、急速に程度を増して、の意で用いられているように思われます→「最近、とみに人口減少の著しい国は…」。
「風浪とにに止むべくもあらず」(『土佐日記』承平五年一月十六日:「とみに」ではなく、「とにに」になっている)。
「十二月(しはす)ばかりに、とみのこととて御文(ふみ)あり」(『伊勢物語』)。
「こぞの夏、竹植る日のころ、うき節茂きうき世に生れたる娘…………おなじ子どもの風車といふものをもてるをしきりにほしがりてむづかれば、とみにとらせけるを、やがてむしやむしやしやぶつて捨て…」(『おらが春』)。
「此一両日カ先ニ一大事ノ所願候。頓ニ成就アル様ニ祈テタヒ候ヘトテ、願書ヲ一通封シテ…」(『太平記』:この「頓ニ」の読みは「トンに」でしょう)。
「Tonni(トンニ). Adu. Repentinamente, ou de repente(急速に、または突然)」(『日葡辞書』)。
◎「どみ(曇み)」(動詞)
「ドンみ(曇見)」の独律動詞化。「曇(ドン)」は空が雲で覆われている状態。その「曇(ドン)」を見ているような状態であることを表現する。
「『是はいかな事。きやつがあゝと申せば、太刀の地膚がどみと致す。』」(「狂言」『じしやく(磁石)』)。
「大坂へくだりし夕霧(遊女の名)……目の内阿蘭陀人のごとくにて、どみたれど」(「評判記」『色道大鏡』:目の内がオランダ人のごとくでどみている、とはどういうことでしょうか。瞳が青系や灰色系で明瞭感が乏しいということか)。
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