◎「とび(飛び・跳び)」(動詞)
「とほおよび(遠及び)」。「とほ(遠)」「および(及び)」はどちらもその項。その動態が、離れ去り遥か遠方へ到着し安定すること。遠くへ行ってしまうこと。そうなるその間の動態。さらには、意味発展的に、それを思わせる動態。この動詞は、獲物にしようと近づいた鳥が空中へたち手の届かない遠くへ行ってしまうことにより生まれている動詞でしょう。それにより鳥を追った者は残念な思いになり、鳥は安堵する。他動表現の「とばし(飛ばし)」(その項)は、ただ遠くへ離れ去らせる。
「あしひきの山飛び(とび:等妣)越ゆる鴈(かり)がねは都に行かば妹に逢ひて来(こ)ね」(万3687)。
「天(あま)飛ぶ(飛ぶ:登夫)鳥も使ひぞ鶴(たづ)が音(ね)の聞こえむ時は我が名問はさね」(『古事記』歌謡85)。
「真土(まつち)山 越ゆらむ君は 黄葉(もみぢば)の 散り飛ぶ見つつ…」(万543:「まつちやま」は奈良県・和歌山県の間)。
「(伯孫:人名)………赤駿(あかうま)に騎(の)れる者(ひと)に逢(あ)ふ、其(そ)の馬(うま)、時(とき)に濩略(モコヨカ)にして、龍(たつ)のごとくに翥(と)ぶ」(『日本書紀』:「翥」は『説文に』「飛舉(挙)也」とされる字。この「とび」は一般に「跳び」と書かれる。「もごよか」は身をくねらせるようにすること(→「もごよひ」の項))。
「記憶がとぶ」(記憶が自分では把握できない彼方へいってしまったような状態になる。)。

◎「とび(鳶)」
「とほみゐ(遠見居)」。高空を巡り遠くを見ている印象の鳥。鳥の一種の名。
「乃(すなは)ち金色(こがね)の靈(あや)しき鵄(とび)有(あ)りて、飛(と)び來(きた)りて皇弓(みゆみ)の弭(はず)に止(と)まれり」(『日本書紀』)。
「鴟 ……一名鳶……和名土比…………喜食鼠而大目者也」(『和名類聚鈔』)。