◎「とげ(遂げ)」(動詞)

「とこをえ(常を得)」。「とこ(常)」はその項。永遠的な安定を得、ということです。緊張による不安、動揺が解消する。後には「思ひをとげ」という他動的な言い方が一般的になりますが、古くは「心はとげず」や「望むに従い意にとげ」といった言い方をした。

「…我が黒髪の ま白髪(しらが)に なりなむ極み 新世(あらたよ)に ともにあらむと 玉の緒の 絶えじい妹と 結びてし ことは果たさず 思へりし 心は遂げず…」(万481)。

「願求する所に隨ひて、意に遂げずといふこと無けむ」(『金光明最勝王経』平安初期点)。

「『ただ、この人の宮仕への本意、かならず遂げさせたてまつれ。…』」(『源氏物語』)。

◎「とげなし」(形ク)

「とげなし(遂げ無し)」。「とげ(遂げ)」はその項。緊張・動揺が解消した永遠的安定がないこと。

「…と云ければ。是を聞てぞ。とげなき物をば、あへなし、と云ける」(『竹取物語』:これは、焼いても焼けないと言われる火鼠の皮衣が焼けてしまったという話であり、それを持ってきた「安倍(あべ)のみむらじ」という人の名にかけて「あへなし」ということなのであるが、「とげ(遂げ)」がない、とは、永遠的安定がないこと)。

 

◎「とげ(刺)」

「とがヘン(科偏)」。「とが(咎)」は過失、落度、手落ちといった意味ですが(その項)、「科」とも書く。「とがヘン(科偏)→とげ」は、「科」の偏(ヘン)ということであり、「禾」のこと。「禾(クヮ)」は日本では「のぎ」と読み、それを意味する(「禾」は漢字の「ノギヘン(禾偏)」と言われる)。「のぎ」は稲籾の先端などにある極めて細く鋭利な印象のもの。つまり、「とがヘン(科偏)→とげ」は、「とがヘン(科片)」でもあり、過失、落度、失敗のかけらのようなものであり、「とが(咎)」として、さぼと強力ではないが、罰の痛みを受けるようなものであり、極めて細く鋭利であり、それが身体に刺さったもの、刺さる印象のもの。

「左の人さ差し指に有(ある)かなきかのとげの立けるも心にかかると…」(『好色五人女』)。

「薔薇(ばら)のとげ」。